TNRと公衆衛生 ④糞便から感染する病原体<トキソプラズマ>

人間が猫の糞便から感染する可能性がある病原体のうち、代表的なのはトキソプラズマ、猫回虫、猫鉤虫といった寄生虫です。覚えておいていただきたいのは、トキソプラズマの「オーシスト」や回虫・鉤虫の卵が猫の糞便と一緒に排泄されても、それがすぐに感染するわけではないことです。外の世界に出て一定期間を経て成熟してから、感染力を獲得するのです。その時間はトキソプラズマで24時間、回虫で9~15日、鉤虫で約1週間といわれています。ですので公衆衛生の観点からは、猫の糞は少なくとも1日1回片づけることが望ましいといえます。猫たちが決まった場所で排泄してくれれば管理が楽ですし、病原体の拡散も防ぐことができます。

また「待機宿主」といって、ネズミや小鳥などがたまたま寄生虫の卵などを食べてしまい、その体内で猫に食べられるのを待っていることがあります。そういったネズミや小鳥などを、猫が食べることにより感染することもあります。TNR後の猫には十分に給餌し、残った餌はすぐに片づけてそれらの動物が近づかないようにする必要があります。

 

トキソプラズマ 

トキソプラズマはコクシジウムと呼ばれる原生動物の仲間です。猫も人間も感染したからと言って特に目立った症状を示さず、必ずしも病原性が高い病原体とはいえません。しかし妊婦に初感染した場合、胎児にも感染して死産や先天障害の原因になることがあります。

猫の体内で成長したトキソプラズマは「オーシスト」という形で糞便とともに排出されます。外界に出たオーシストは24時間かけて成熟し、それを口に入れたネズミに感染します。その後ネズミの体のあちこちに「シスト」を形成します。猫がシストとともにネズミを食べると、それが猫に感染します。ネズミ以外の動物、例えば人間や豚なども、たまたま成熟したオーシストを摂取してしまうと感染し、体内にシストができます。また人間が、シストが含まれた豚肉を十分に加熱せずに食べるとやはり感染します。体内にシストができても、健康な人は無症状ですが、シストがなくなるわけではないので、免疫状態が低下すると脳炎や肺炎を起こすことがあります。

環境中に排出されたオーシストは極めて抵抗性が強く、消毒薬がほとんど効かないため、死滅させるためには熱湯殺菌するしかありません。排泄後24時間以内に糞を処理するのが、最も簡単な予防法です。また猫に生肉や生の動物を食べさせないことも重要です。

 

※余談ですが、体内にシストができたネズミは猫を恐れないようになるそうです。ネズミが猫に食べられやすくなるために、トキソプラズマがネズミの行動をコントロールしていると考えられています。人間もトキソプラズマの感染によって、物おじせず大胆な性格になるのではないかという説があります。だからといって、わざと感染することはお勧めしませんが。