TNRと公衆衛生 ⑥飛沫やほこりから感染する病原体

猫の糞便や分泌物の飛沫やほこりから感染する可能性がある感染症には、コリネバクテリウム・ウルセランス感染症やQ熱があります。

 

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症 

コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans、以下、ウルセランス菌)はジフテリア菌の仲間で、人間に感染するとジフテリアに似た症状を示します。最初は発熱や鼻水などの風邪に似た症状で、のどの痛みや咳が続きます。重症化すると呼吸困難等で死亡することもあります。

この菌は犬や猫にくしゃみ・鼻水といった風邪に似た症状や、皮膚病を引き起こします。人間には、ウルセランス菌に感染した犬や猫との接触や飛沫によって感染します。このような症状がある犬や猫を取り扱う際には手袋やマスクを着用することが望ましく、過度の接触を避けるべきです。またウルセランス菌に感染しても無症状の犬や猫もいるので、動物を取り扱った後の手洗いが重要です。

 

Q熱 

発見当時原因不明であったことからこの病名がつけられましたが、現在はCoxiella burnetiiという小さな細菌が原因であることがわかっています。自然界で哺乳類や鳥類が広く保有していて、動物は特に症状を示しませんが、人間か感染すると発熱や呼吸器症状を示し、また慢性経過をたどると心内膜炎や動脈炎を起こしたり、慢性疲労症候群の原因になったりします。日本では猫が重要な感染源と考えられています。

C.burnetiiは妊娠動物の胎盤で増殖して、出産や流産の際に外界に出ます。また子宮や膣の分泌物や乳汁、糞尿に含まれていることもあります。猫は感染動物の死体や組織を食べることや、分泌物などの飛沫が口に入ったり吸い込んだりして感染します。またマダニがC.burnetii を媒介することがあることもわかっています。

人間は分娩または流産した猫を取り扱う際にC.burnetiiに感染することが多いです。流産した野良猫を取り扱う際には、必ず手袋やマスクを着用すること、またその後発熱や呼吸器症状があれば医療機関を受診し、その際に「猫を取り扱った」旨を申告してください。

 

皮膚糸状菌は患部のフケなどのほこりから感染します。

 

皮膚糸状菌症 

皮膚糸状菌(カビの一種)が皮膚に生える病気で、その場所によって「白癬」「たむし」「水虫」「しらくも」などと呼ばれます。患部は脱毛したり、赤くはれたり、水疱ができたりし、かゆみが現れることもあります。多くの動物に感染しますが、猫が比較的かかりやすいようです。犬や猫が感染すると、その部分が円形に脱毛し、フケが出ます。人間は動物に直接接触、または動物が触れた土やねぐらのほこりから感染しますが、カビは環境中で長期間生存するため、汚染された土やほこり、または器具から感染することもあります。症状のある動物に接触しないことが推奨されますが、野良猫に遠くから現認できるような大きな病変がある場合は全身的に状態が悪いことが多いので、保護の対象になることが多いと思います。その際には手袋の着用や十分な手洗いなどの対策が必要です。