TNRと公衆衛生 ⑦唾液や血液などからの感染

口内細菌の感染 

犬や猫の口内に普通にみられる口内細菌が、咬まれたり傷口を舐められたりすることにより人間に感染し、重い症状を示すことがあります。犬や猫に咬まれたら、傷口を石鹸で十分に洗浄し、速やかに医療機関を受診してください。私は職業柄、よく野良犬や野良猫に咬まれますが(自慢できることではありませんが)、適切な処置により今まで大事に至ったことはありません。

 

パスツレラ症 

パスツレラ菌は犬の約75%、猫のほぼ100%が保有しているといわれている、ありふれた口内細菌です。人間が動物に咬まれることによりパスツレラ菌が侵入すると、その部分の腫れと痛みがあらわれ、その後急速に皮下の炎症が深く広い範囲に拡大する(蜂窩織炎)ことがあります。また飛沫を吸い込むことにより気道から感染することもあり、その際には風邪に似た症状や気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などを引き起こします。

 

カプノサイトファーガ感染症 

カプノサイトファーガも犬や猫のごく普通の口内細菌です。咬まれたり引っかかれたりして人間に感染すると、発熱や倦怠感、腹痛や吐き気、頭痛などの症状を示し、重症化すると敗血症や髄膜炎で死亡することもあります。40歳以上で特に男性の感染者が多いといわれています。

 

感染猫の体液からの感染 

 

重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 

SFTSウイルスはマダニに咬まれることにより人間を含めた動物に感染し、発熱、全身倦怠感、消化器症状などを引き起こし、重症化して死亡することもあります。特に猫で重症化しやすく、致死率は6割といわれています。また発症した犬や猫の体液(血液、唾液、便、尿)から人間が感染することもあり、動物病院で獣医師が猫から感染した例もあります。特に西日本で、動けないほど弱った猫を保護する際には体液に触れないよう細心の注意が必要です。※SFTSは三重県以西、特に山口県や宮崎県、鹿児島県で多く報告されていましたが、2021年3月には静岡県で発生が報告されました。

 

猫ひっかき病(CSD) 

CSDを引き起こすバルトネラ・ヘンセレは、猫に感染すると血液内に1~2年間存在し、けんかにより直接、またはネコノミの吸血により他の猫に感染します。バルトネラ菌は犬にも感染しますが、猫や犬は感染しても無症状です。猫に引っかかれたり咬まれたりすることで人間に感染すると、その部位が腫れたり、発熱したりします。その後近くのリンパ節が腫れ、数週間~数ヶ月で自然治癒します。特効薬がないので対症療法で自然治癒を待ちますが、リンパ節の腫れを抑える薬はあるようです。ただし免疫機能が低下している人は重症化することがありますので、そういう方は猫の取り扱いを避けた方が無難ですし、保護猫を譲り受ける際にも注意が必要です。一般に1歳未満の、温暖な地域の野良猫の保菌率が高いといわれています。