香港の犬TNR実証実験 その1

2015年から3年間、香港において政府公認で犬のTNRが試験的に実施されました。香港にも日本の動物愛護法や狂犬病予防法に相当する法律があり、本来であれば犬のTNRは違法です。愛護動物協会(SPCA)と遺棄動物協会(SAA)が、政府から犬のTNRの認可を得て、漁農自然護理署(AFCD)の管理のもとにTNRの試験的実施が可能となったのです。

AFCDは日本でいえば農林水産省と環境省が一緒になったような組織で、その中のInspection and Quarantine(検査と検疫)と呼ばれる部門が、食品検疫や家畜伝染病管理、動物愛護管理など獣医事全般を担当しています。犬のTNRはAFCDのホームページ(https://www.afcd.gov.hk/english/quarantine/tnr_trial_programme.html)でも紹介されています。

実施後の2018年に政府の食品安全・環境衛生委員会から出された報告書※に沿って、その概要を見ていきましょう。

犬のTNRは、環境が全く異なる2つの地域で実施されました。SPCAが担当したのは、離島区の長洲(Cheung Chau)、SAAが担当したのは、元朗区の大棠(Tai Tong)です。長洲は俗に「長州島」と呼ばれる離島で、漁業が盛んなほか、観光地としても人気があります。大棠は深圳に近い香港北部に位置し、郊外の緑が多い住宅地です。両実施団体は、現地で犬の捕獲や給餌を行う管理者を募集しました。

犬のTNRは、野犬の個体数減少と苦情の減少を目的に実施されました。犬は捕らえられたのちに避妊去勢手術が実施され、狂犬病ワクチンを含む主要なワクチンを接種され、駆虫およびマイクロチップ装着のうえ、元の場所に戻されました。

犬のTNRの実施にあたり、両実施団体に対して、AFCDからは次の目標が提示されました。

 

(a) 最初の6か月で、対象地区の野犬の80%の避妊去勢手術を完了すること。

(b) 試行期間中、対象地区の野犬の個体数を年間10パーセント減少させること。

(c) 試行期間中における野犬に関する苦情数は、対象広域地域の平均かそれ以下であること。

 

(a) (c) はともかく、(b)はかなり厳しい条件です。いくら野犬の寿命が飼い犬よりも短いとはいえ、年間10%はなかなかな数字です。AFCDとしては、法的な除外措置を設けてまで実施するのですから、それくらいのペースで成果を出してもらわなければ困るということでしょうか。逆に言えば、それくらいの成果を出さなければ「キャッチアンドキル」の意見を封じることができないからなのでしょう。

またAFCDは公正な視点から効果を検証するため、独立の調査員にその業務を委託しました。そして3年間の実証実験が実施され、2018年に報告書が出されました。

 

※  ”Outcome of the “Trap-Neuter-Return” Trial Programme for Stray Dogs” ,LegCo Panel on Food Safety and Environmental Hygiene(2018)