2015年から3年間、香港で実施された犬のTNRの結果について、政府の委員会から報告書が出されています※。その評価は当初の実施目標、つまり
(a) 最初の6か月で、対象地点の野犬の80%の避妊去勢手術を完了すること。
(b) 試行期間中、対象地点の野犬の個体数を年間10%減少させること。
(c) 試行期間中における野犬に関する苦情数は、地域全体の平均かそれ以下であること。
を達成することができたか否かで行われました。
(a) 最初の6か月で、対象地点の野犬の80%の避妊去勢手術を完了すること。→未達成
実証実験が実施された3年間において、長洲(Cheung Chau)の対象地点で65頭、大棠(Tai Tong)の対象地点で37頭の犬にTNRが実施されました。両地点において最初に設定された野犬の数は不明ですが、最終的には80%の実施率を達成したようです。しかし最初の6か月間に限ると、長洲で25頭、大棠で15頭の実施で、いずれも目標未達であったと報告書には記載されています。そして目標に達したのは実験開始10か月後であったとしており、その時点での実施数は長洲で43頭、大棠で37頭でした。逆算すると、長洲の対象地点には約53頭、大棠の対象地点には約46頭の野犬がいたということになります。
目標未達の原因として、報告書は「捕獲檻に対して野犬が警戒していて、なかなか入らなかった」ことを挙げています。そして、捕獲漏れが犬の新たな繁殖につながった可能性を指摘しています。
実験期間中に対象地点で確認された実験対象の野犬の数(実験開始以前に避妊去勢手術を行った犬や、飼い犬であったことが判明したものを除く)、対象地点に新たに流入した犬の数、そしてTNRの累積実施数については下図のとおりです(報告書の表があまりにも見にくいので、私がグラフにしました)。これらの数字は、第三者の調査員が月ごとに集計したものです。
野犬の観察数は月ごとに変動していますが、それは新たな犬の流入や移転、天候や季節の影響、祝祭時の食料資源の追加などの要因が考えられます。また大棠の場合、犬がシェルターに入ったことを調査員が認識していなかったということもあったようです。
※ ”Outcome of the “Trap-Neuter-Return” Trial Programme for Stray Dogs”,LegCo Panel on Food Safety and Environmental Hygiene(2018)