香港の犬TNR実証実験 その4

2015年から3年間、香港で実施された犬のTNRの結果について、政府の委員会の報告書※ではこう結論付けられています。

 

実験の成果について 

3年間の実証実験において、漁農自然護理署(AFCD)が設定した3つの目標を達成することはできなかった。実施者による定期的な給餌および、ケアや治療によって野犬の寿命が延びることを勘案すると、TNRは野犬の個体数と苦情を短期間で減らすことには効果的ではないようである。しかし2地点における実験実施者は、調査対象となった犬を今後数年間監視し、個体数の変化および平均寿命についてのデータをAFCDに提供することに同意した。

 

今後の方針について 

2地点における犬TNR実証実験の結果はかなり異なっていた。それは、2地点の設定が異なっていたからであると考えられる。長洲の対象地点はより開放的で大きく、犬の動きが多く、大棠の対象地点は犬の動きが少なく、半分閉じられた小さなエリアで、実施者が犬を保護することができるアニマルシェルターがある。このように犬TNRの効果は地点によって異なる可能性がある。そのため政府は、野犬の管理のため特定地点でTNRの実証実験を実施したいという提案があれば、それを拒否するものではない。その実施については、人口密度、公共施設への距離、交通状況などの要因を考慮して、個別に検討されるが、地域コミュニティのサポートも不可欠である。実施の際には、実施者等に対して「犬および猫に関する条例」(Dogs and Cats Ordinance(Cap.167))および「狂犬病に関する条例」(Rabies Ordinance(Cap.421))に基づく規定を免除することができる。AFCDは提案者を支援し、実証実験で得られた経験の共有、関連する地区評議会や地元関係者との連絡の支援などにより、その実施をサポートする。

一方AFCDは、適正飼養の普及や、各団体と協働した避妊去勢手術や譲渡の促進など、従前の対策を引き続き実行していく。野犬の個体数や苦情件数の減少は、これらの方策が概して実を結んでいることを示している。

 

つまり香港政府は、犬のTNRにより野犬の個体数や苦情件数を短期間に減らすことは難しいとしながらも、実証実験の再度の実施について含みを残しています。また実証実験後の対象地域における監視を続けるということですが、実証実験終了からすでに数年が経過していますので、そろそろ監視データを公表していただきたいところです(今のところAFCDのホームページには記載がありません)。

しかしながらこの報告書を読む限り、香港政府は犬のTNRについてあまり乗り気ではないニュアンスがにじみ出ています。次回はこの報告書の内容を、極力好意的に解釈してみます。

 

※  ”Outcome of the “Trap-Neuter-Return” Trial Programme for Stray Dogs”,LegCo Panel on Food Safety and Environmental Hygiene(2018)