野犬にTNRを実施すると、野犬による苦情は減るはずです。正確に言うと「野犬がうろついていて怖い」という、被害を伴わない苦情は増えるでしょうが、人的被害や、動物や農作物への被害、生活環境への危害といった、実害を伴う苦情は減るはずです。
避妊去勢手術には、犬の問題行動を減らす効果があるといわれています。米国獣医師会雑誌のHoulihan(2017)による文献レビュー※を読んでみます。
Gonadectomy and the resultant decrease in gonadal steroid hormones typically result in a marked reduction or elimination of sexually dimorphic behaviors, including roaming, hormonal aggression (fighting with other males or females), and urine marking. In males, the age at castration or duration of the behavior does not change the likelihood that surgery will alter these unwanted behaviors.
性腺摘出術とそれに伴う性腺ステロイドホルモンの減少により、通常、徘徊、「ホルモン攻撃」(他の雄や雌とのけんか)、尿マーキングなどの二次的性行動が著しく減少または消失する。雄の場合、去勢した年齢や行動の期間によって、手術によってこれらの好ましくない行動が変化する可能性は変わらない。
The literature provides consistent results regarding the effects of gonadectomy on behaviors driven by testosterone or estrogen; however, studies involving behaviors not directly related to gonadal steroid hormones have resulted in mixed findings. Although the most serious bite injuries in the United States involve sexually intact dogs,gonadectomy has not been found to be a useful measure to prevent aggressive behavior in male or female dogs. Gonadectomy consistently reduces only intermale aggression and may actually contribute to increased aggression in female dogs.
テストステロンやエストロゲンによって引き起こされる行動に対する性腺摘出術の効果については、文献上一貫した結果が得られているが、性腺ステロイドホルモンに直接関係のない行動に関する研究では、様々な結果が得られている。米国で最も深刻な咬傷は、性的に未処置の犬によるものであるが、性腺摘出術は、雄または雌の犬の攻撃的な行動を防ぐための有用な手段であるとは認められていない。生腺摘出術は一貫して雄同士の攻撃性のみを減少させ、実際には雌犬の攻撃性を高める一因となっている可能性がある。
つまり
・徘徊やけんか、マーキングなど、性腺ホルモンが関与する行動の軽減に関しては避妊去勢手術が有効である
・咬傷事故を起こす犬は性的未処置の犬が多いが、避妊去勢手術によって咬傷が防止できるかどうかははっきりしていない
・避妊手術がかえって雌犬の攻撃性を増す可能性がある
ということです。
※“A literature review on the welfare implications of gonadectomy of dogs”