各自治体による犬猫の殺処分数に順位を付けた「殺処分数ランキング」がよく出まわっていますが、殺処分数に順位をつけて並べてみたところで何の意味もありません。また「殺処分ゼロ」を宣言している自治体もありますが、それもあまり意味がありません。逆にそういう風潮が、各自治体の政策判断を歪めているのです。
もし数字を比較するのであれば、「引取り数」と「殺処分率」に着目すべきです。この2つの数字から、その自治体が抱えている問題点と、解決すべき点が見えてきます。
引取り数が多く、殺処分率も高い【入口対策の失敗】
引取り数が多く、その分殺処分数も多いのは、当然といえば当然の状態です。引取り数の多さは、入口対策の失敗を意味します。具体的に言うと、野良犬または野良猫の繁殖が続いているという状態です。また野良犬や野良猫が多数存在している状態は、飼い犬や飼い猫の遺棄を誘発するという悪循環を起こします。速やかに対策を講じないと、この状態がいつまでも続きます。譲渡を増やし殺処分を減らす努力は必要ですが、入口対策が急務です。
引取り数が多く、殺処分率が低い【入口対策の失敗+不適切な譲渡】
引取り数が多いにもかかわらず、殺処分数が極端に少ない自治体は「怪しい」と思うべきです。一見そういう自治体は頑張って譲渡していると称賛されがちですが、その実態は「動物愛護団体丸投げ」の「垂れ流し譲渡」です。もちろんNBA(neuter before adoption:譲渡前避妊去勢)など望むべくもありません。見た目の殺処分数を減らしたい自治体と、やりがいを求める動物愛護団体の思惑が一致し、妙な共生関係が生じています。そうやって見た目の殺処分数を減らしているので、入口対策の必要性についての問題意識が薄いことが何よりも問題です。
引取り数が少ない【過剰な引取り拒否】
首都圏や関西圏で、しかも人口の少ない中核市の場合、そもそも野良犬や野良猫が少なく、引取り数も少ない場合があります。そうではなく、引取り拒否により引き取り数を極端に絞っている自治体もあります。引取り数が少なければその分殺処分数も少なくなるので、引取り拒否は一度始めるとやめられません。かつてこの手法を用いて見た目の殺処分数を減らし、称賛された自治体もありました。自治体による引取り拒否から、動物愛護団体へというルートが確立されている場合もあります。同じような人口規模であるにもかかわらず、引取り数が極端に少ない自治体は怪しいと感じるべきです。もちろん入口対策の必要性についての問題意識が薄いことは言うまでもありません。
見た目の殺処分数に惑わされることなく、その自治体が抱えている問題点について冷静に分析することにより、自治体に改善を求める点や、民間による協力のメニューを示すことができます。「殺さないで」だけでは何も解決しません。