「動物愛護管理行政事務提要」の読み方・各論編<令和2年度最新版> その③

「動物愛護管理行政事務提要」の引取りや殺処分についての自治体データについて、ツッコミを入れながら見ていきます。その目的は特定の自治体を貶めることではなく、皆さんに冷静にデータを見るためのヒントを差し上げることにありますので、あえて自治体名は隠しています。

 

まず、おそらく動物愛護管理行政に関しては、日本で最も過酷ではないかと個人的に思っている自治体の例を挙げてみます。大都市圏周辺の、比較的人口が多い地域の典型的なパターンです。

この自治体には都市部も山野もあるため、ありとあらゆる問題点が凝縮されています。まず所有者不明の犬の引取りが異常に多いです。その多くが野犬で、離乳直後の子犬ではないかと思われます※1。野犬の成犬の捕獲は困難なため、生まれた子犬の捕獲が中心となり、野犬の数はなかなか減りません。幼齢個体の譲渡が少ないように感じますが、譲渡総数に矛盾はなく、おそらく幼齢個体の多くは離乳後に譲渡しているため、こういう統計になるものと考えられます※2。②すなわち管理上の理由による殺処分は、全て幼齢個体です。

この自治体の課題は「野犬の集中的な捕獲」そして「猫のTNRの積極的普及」を緊急に進めることではないかと思われます。

 

もう一つの自治体の例を挙げておきます。特に関西の都市部には、このようなパターンが多いです。

幼齢犬の引取りがゼロということは、管内で野犬が繁殖しているわけではなく、放浪犬(=捨て犬)が多いのではないかと推定されます(繁殖した野犬の子を離乳直後に捕獲している可能性もありますが)。また幼齢猫の引取りが多く、その多くは②すなわち管理上の理由で殺処分されています。こういう都市部においては、「飼い犬の遺棄防止についての啓発」や「マイクロチップの普及」そして「猫のTNRの推進」を愚直に実行すれば、解決は比較的早いと考えられます。

 

ここで紹介した2つの自治体は比較的都市部に位置し、愛護者からの突き上げもすさまじいのではないかと思われますが、まやかしの「殺処分ゼロ」に逃げることなく、正直に数字をあげていることに好感が持てます。

 

※1 幼齢犬は管理が大変なので、出産した野犬をモニタリングして、子犬が離乳したタイミングで捕獲するという手法がよく使われます。

 

※2 幼齢個体の譲渡数を集計する際に、幼齢の基準を引取り時に置くか、譲渡時に置くかによってここの数字は変わってきますが、環境省のガイドラインでは「幼齢個体は離乳後譲渡する(社会化後が望ましい)」とされています。