「動物愛護管理行政事務提要」の自治体データに勝手にツッコミを入れていますが、時々変なデータに出くわします。
これは「殺処分ゼロ」を自称している、ある自治体のデータです。たしかに②の殺処分数はゼロになっています。しかしこれだけのデータからでも、この自治体が抱えている闇の深さが見て取れます。それをひとつずつ見ていきましょう。
犬の引取り数
特にこの自治体は、所有者不明犬の引取りが非常に多いです。この自治体は野犬の生息数が多いことで有名ですから、その多くは野犬であると推測されます。その原因は入口対策の失敗にあることは言うまでもありませんが、問題はそこに留まりません。私が気になったのは「幼齢個体」の多さです。前回もお話ししたように、我々の間では離乳前の子犬を捕獲することは愚手とされていて(「管理上の理由」による殺処分の要因になるからです)、親子をしばらく「泳がせて」、離乳を待ち子犬を捕獲します。もちろん、住民によって離乳前の子犬が持ち込まれてしまうケースもありますから、全くゼロというわけにはいきませんが。幼齢犬の引取りが多いということは、そこには何かの理由があるはずです(この数がどれだけ異常か、前回ご紹介した他自治体のデータを参考にしてください)。
猫の引取り数
所有者不明猫の引取り数は、思ったよりも少ない印象があります。しかし幼齢猫の引取りが多いことは入口対策の失敗を意味し、成猫の引取り数はかなり絞り込まれていると推測されます。この自治体の課題はTNRの推進であると考えられます。
譲渡数の多さ
引取った犬猫のほとんどが譲渡されています。これだけの数を全て個人に譲渡しているとは考えられないので、動物愛護団体に丸投げしているものと推測されます。また幼齢動物の譲渡が異常に多いのも、この自治体の特徴です。幼齢動物のケアのスキルを持った個人への譲渡はありえなくはありませんが、普通に考えて幼齢動物の譲渡先は動物愛護団体のはずです。
つまり
・獣医学的理由で安楽殺が必要な個体は安楽殺する
・それ以外は動物愛護団体に丸投げ
・幼齢個体もそのまま動物愛護団体に丸投げ
その結果「殺処分ゼロ」を達成し、しかも「管理上の問題」から解放され、職員の負担も軽減されるという素晴らしいシステムが実現したわけです。
それを享受するためには、動物愛護団体の負担増による動物福祉の低下という現実を見てみないふりをするだけの鈍感力が必要です。行政が楽をしようとすれば、そのしわ寄せは一番弱い者、すなわち動物たちが負うことになります。