「殺処分ゼロ」が行政目標になってしまったせいで、各自治体には殺処分数を減らすことが求められることになりました。そしていくつかの自治体は、引取り後の犬猫を動物愛護団体に丸投げすることによって、殺処分数を大幅に減らすことに成功しました。ひどい自治体になると、それをもって「殺処分ゼロ」を宣言したりしています。もちろん、殺処分を「免れた」犬猫たちがその後どうなっているかなどということは知る由もありません。元野犬が譲渡先で逸走したり、マッチング不足により譲渡先でトラブルを起こしたりといった話はよく聞きますし、引き出し団体が持て余した挙句に他の団体に丸投げし、それが繰り返され最終的には京都の「神様」宅にたどり着いたなどという話もあります。引き出し団体による、犬猫の不適切な管理が大きな問題になった事例もあります。
実を言えば「殺処分ゼロ」に毒されているのは行政だけではなく、動物愛護団体もかなりの毒を食らっています。以下、ウチの自治体の話をしますが、おそらく似たような話はあちこちにあるのではないかと思います。
かつて動物愛護団体は、行政とは明確に距離を置き、時には行政による殺処分を強く糾弾しながら活動してきました。彼らは犬猫が行政機関に引取られることがないよう、独自のネットワークで動物保護活動を行っていました。行政機関に引取られることは、すなわち殺処分を意味していたからです。彼らは行政機関への来所や電凸ばかりではなく、SNSで担当者の名前を晒しながら、殺処分に対する反対意見と行政批判を流布しました。
ウチの自治体はそのプレッシャーに折れる形で、各保健所から動物愛護団体への譲渡というルートを解禁しました。この決断が、行政と動物愛護団体との関係を変質させました。動物愛護団体はいったん保健所に引取られた犬猫を、動物愛護管理センターへの移送期限前に引き出し、譲渡することに注力し始めました。つまり動物愛護団体の方針が「行政による引取り阻止」から「動物愛護管理センターへの移送阻止」へと変わったのです。ウチの自治体は殺処分をセンターのみで行っているので、センターへの移送さえ阻止できれば、自分たちの力で「殺処分ゼロ」が実現できると彼らは信じていたのです※。
そして地元の動物愛護団体が管轄の保健所ごとに「担当」となり、各保健所管内の「殺処分ゼロ」を目指すようになりました。「殺処分ゼロ=センター移送阻止」が目的ですから、彼らは多少無理をしてでも保健所から犬猫を引き出します。行政側もそれをいいことに、ろくなフォローもなしにどんどん犬猫を押し付けていきます。行政と動物愛護団体は蜜月関係とまではいえないものの、目標を共有する妙な共生関係を築きました。
※もちろん健康上の理由や性格的理由により明らかに譲渡不適と考えられる犬猫については、密かにセンターに移送されています。もちろん、地元の動物愛護団体にバレると大変なことになりますが。