自治体と動物愛護団体のいびつな関係

一昔前-とはいえ、十何年も前の話ではありませんが-においては、自治体が引取った犬猫はその一部(人慣れした犬猫や子犬・子猫)が譲渡に回され、ほとんどが殺処分されていました。引取りはすなわち殺処分を意味し、地元の動物愛護団体は「自治体への引取り阻止」を合言葉に、飼い主のいない犬猫の保護活動を行ってきました。私が以前勤務していた保健所の管内においても地元で数人のボランティアが活動していて、住民が飼い主不明の犬猫を保護したら、そこに連絡すると引取ってもらえるというルートが確立されていました。ですので、保健所が所有者不明の犬猫を引取るということはほとんどありませんでした。保健所に入ってくる犬猫は、飼い主による持ち込みか、保健所が捕獲した迷い犬や野犬がほとんどでした。

しかし自治体に引取られた犬猫を、動物愛護団体が引き出して譲渡先を探すというスタイルが定着してからは、彼らは所有者不明の犬猫を保護した人に対し「最後は自分たちが引き出すから、いったん保健所に預けるように」と指示し、直接受け入れなくなったのです。

本来であれば、飼い主のいない犬猫の保護活動は地元の動物愛護団体が行い、動物愛護団体が保護しきれなかった犬猫を自治体が引取るというのが望ましい姿なのです。犬猫をアニマルシェルターに入れないほうがいいというのは、少なくともシェルターメディスンの世界では常識です。シェルターには様々な種類や来歴の動物が入ってくるため、感染症に罹患するリスクが高いのです。またシェルターに入れられること自体がストレスとなり、そのことが免疫機能を低下させ、さらに感染症のリスクが高まります。ストレスは異常行動の原因にもなります。米国では、特に感染症やストレスに弱い子猫は、シェルターに入れず預かりボランティアに直接引き継ぐことが主流になっています。

余談ですが、米国において預かりボランティア(foster)はアニマルシェルターと契約していて、シェルターから動物を受け入れる一方、飼養管理や獣医療などのサポートを受けます。また一部の州では、シェルター関連施設として法的規制を受けます。受け入れ頭数や飼養スペースに細かい基準が定められていることもあります。つまり預かりボランティアの質が保証されており、日本のような「後は野となれ山となれ」的な丸投げとは根本的に異なります。

話を戻しますが、なぜ日本は逆に犬猫を動物管理機関に引取らせる方向に進んでいるのでしょうか。それを動物愛護団体の代表者に尋ねると「保健所から引き出したという実績が欲しい」という、予想通りの回答でした。そもそも自治体に引取られなければ殺処分もないわけですから、それだけでも十分に「殺処分ゼロ」という目的は果たしていると思うのですが、やはり「自治体に引取られ、殺処分を待つ犬猫を救った」という実績が欲しいのです。気持ちは理解できますが、もやっとしたものが残ります。