環境省は統計上、殺処分をこの3種類に分類しています。
① 譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
② ①以外の処分(譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難)
③引取り後の死亡
①の例として挙げられている「治癒の見込みがない病気」も様々な解釈が可能です。動物管理機関でよく問題になる「治癒の見込みがない病気」の例として、猫白血病や猫後天性免疫不全症候群(以下「猫エイズ」と略します)といった「猫のレトロウイルス感染症」が挙げられます。レトロウイルスに感染しても、しばらくするとウイルスが消えてしまうこともありますが、多くの場合はウイルスが体内に潜んだ状態が一生続きます。いわゆる「キャリア」と呼ばれる状態です。体内に潜んでいるウイルスが活性化し発症させる可能性もありますが、キャリアのまま発症せずに一生を終えることも珍しくありません。
猫白血病や猫エイズを疑う臨床症状があり、簡易検査でFeLV(猫白血病ウイルス)またはFIV(猫免疫不全ウイルス)が陽性の猫は「治癒の見込みがない病気」として安楽殺対象となり、当然のことながら譲渡対象にもなりません。このことについては、おそらく異議はないでしょう。問題となるのは、見た目は健康で簡易検査陽性の猫です。
環境省によると、猫白血病や猫エイズに「罹患した」猫については「他の動物への罹患を防止するため」殺処分対象であるとされています。しかしFeLVやFIVのキャリアであることをもって「罹患した」といえるのか、そして本当に「譲渡することが適切ではない」のかは、最新の獣医学的見地から判断する必要があります。
例えば、架空の2つの自治体について考えてみます。自治体Aは猫の収容数が多く、新規の猫の受け入れが難しい状況となっていました。そこで殺処分対象の猫を特定する目的で収容中の猫にFIVの簡易検査を行ったところ、見た目健康な1匹の猫に陽性結果が出ました。自治体Aの担当者はこの猫が猫エイズに「罹患している」とみなし、「譲渡不適」と判断し安楽殺を実施しました。自治体Aはこれを「①の殺処分」に計上しました。
自治体Bはマッチングの参考にするため、成猫の譲渡前にFIVの簡易検査を実施しています。FIV陽性の猫であっても、先住猫がいなかったり、先住猫がFIVキャリアであれば譲渡可能と判断しているからです。ある猫がFIV簡易検査で陽性の結果を示しましたが、見た目が健康だったため「譲渡可能」と判断し譲渡先を募集しました。しかし残念ながら譲渡先が見つからず、長期収容を避ける観点からやむなく安楽殺となりました。自治体Bはこれを「②の殺処分」に計上しました※。
獣医学的判断によれば、たとえ猫がFIVの簡易検査で陽性であっても、見た目が健康であれば安楽殺の必要はありません。譲渡に適しているか否かは、その自治体の判断によります。たとえ見た目が健康であっても、FIV簡易検査陽性の結果をもって「罹患している」とみなし「譲渡不適」として殺処分している自治体は実在します。殺処分の必要性を譲渡適性で判断することは、そこに<獣医学的判断以外の不純な>行政判断が入り込むことを意味するため、かえって無用の混乱を生むと私は考えています。
※このような場合、譲渡先が見つからないことは実際にはほとんどないため、あくまでも架空の話です。