「殺処分の分類」という茶番 おまけ

前回記事で、動物管理機関がFIVキャリアの猫をどう扱うかというお話をしましたが、実はそこでご紹介しなかった「自治体C」が存在します。実を言うとウチの自治体もそうなのですが、見た目健康な成猫を、あえてFeLV(猫白血病ウイルス)やFIV(猫免疫不全ウイルス)の検査を行わず譲渡する自治体もあります。譲渡の際には未検査であることを説明し、必要であれば譲渡後の検査をお勧めしています。もちろん免疫不全を疑う症状を示す猫にはFeLVやFIVの簡易検査を実施し、陽性であれば「回復の見込みなし」として安楽殺を行います。

実を言うと、米国のアニマルシェルターではこのような対応が主流になりつつあるとSchumacher(2019)※は述べています。詳しくは原文を参照していただきたいのですが、シェルターで受け入れた猫の全頭にFeLVやFIVの検査を実施することの問題点として、以下を挙げています。

 

・健康な猫のFeLVやFIVの感染率は数パーセントであり、無視できること。

・FeLVやFIVの感染力は極めて弱く、成猫間での感染はまれであること。

・検査キットは高価で、全頭検査はコストがかかること。また検査には採血が必要で、人手がかかること。

・健康な猫に検査を実施した場合、偽陽性が発生し無感染の猫が安楽殺されるおそれがあること。偽陰性はほとんど発生しないが、感染と検査のタイミングによっては陽性を検知できない可能性があること。

・見た目が健康な猫の安楽殺が、スタッフの士気の低下や燃え尽き症候群を増加させること。

 

そして、発症が疑われる猫にのみ検査を実施することを推奨しています。

もちろん、猫のFeLVやFIVの検査が無意味だと言っているわけではありません。アニマルシェルターという特殊な条件下において、検査実施の利点と欠点を勘案した結果なのです。

特に短期間で譲渡を目指すようなシェルターでは、感染と検査のタイミングが問題になります。例えばFIVの場合、簡易検査で陽性を確認できるのは感染後30~60日以降であるといわれています。ウチの自治体では受け入れた成猫が30日以上滞在することはほぼないため、譲渡前にFIVの簡易検査を実施したとしても、受け入れ直前の感染は拾いきれません。陰性結果は検査時点における「陰性」を示すだけですので、その場限りの「陰性」結果を示してお茶を濁すよりは、未検査であることに納得いただいた方に譲渡し、必要であれば新しい飼い主の判断で検査を実施してもらうのが誠実なやり方なのかなと私は考えています。

 

※「Why are some shelters no longer testing all cats for FeLV and FIV?」

https://www.sheltermedicine.com/library/resources/?r=why-are-some-shelters-no-longer-testing-all-cats-for-felv-and-fiv