「殺処分の分類」という茶番 おまけの2

アニマルシェルターにおける猫レトロウイルス検査について、”2020 AAFP Feline Retrovirus Testing and Management Guideline”※1によると、「シェルターに入った猫の全てについて、スクリーニング検査の実施が理想」としながら、シェルターの各種負担を考慮し、

 

・シェルターにおいて、個別に飼育されている猫の検査は任意である。

・猫をグループ飼育する際には、グループに入れる前の検査が必須である。

・猫を譲渡する際には、譲渡先に先住猫がいる場合には検査が必須である。

(いずれも健康上の問題がない場合)

 

としています。

FeLV(猫白血病ウイルス)やFIV(猫免疫不全ウイルス)といったレトロウイルスは猫同士の接触により感染します。その他多くの感染症と異なり、飛沫や物を介して感染する性質のものではありません。そのため、猫を個別に飼育している限り、猫がレトロウイルスに感染するリスクはありません。よって、シェルターにおいて譲渡前またはグループ飼育前にFeLVやFIVの検査を実施することは非常に効率的で、理にかなっています。その目的は譲渡時のマッチングや、飼養管理の参考にするためです。

 

しかし「殺処分の理由づけ」という、よこしまな理由でFeLVやFIVの検査が行われることがあります。特に「FeLVまたはFIVの簡易検査で陽性であれば安楽殺を行う」という方針のシェルターにおいて、この傾向は顕著です。これは日本も米国も同じです。

HurleyとPesavento(2013)※2は、シェルターの切実な現状についてこう述べています。

 

Sadly, many shelters admit a larger number of healthy, FeLV negative cats than are adopted out. If some cats are going to be selected for euthanasia and the choice is between FeLV positive and FeLV negative cats who are otherwise of similar adoptability, it makes sense to choose the FeLV positive cats, leaving more resources available for the rest of the population.

残念ながら、多くのシェルターでは、健康なFeLV陰性の猫の数が、譲渡される数を上回っている。もし、安楽殺させるべき猫がいて、それがFeLV陽性の猫とFeLV陰性の猫のどちらかで、他の点では譲渡の可能性が同程度の場合、FeLV陽性の猫を安楽殺対象に選ぶのは理にかなっており、残りの個体群のために利用できるリソースも多くなる。

 

健康なFeLV陽性猫を安楽殺する、獣医学的理由はありません※3。これは明らかに「管理上の理由」による安楽殺です。日本においても、FeLVやFIVの簡易検査陽性を理由に猫の安楽殺を実施している自治体がありますが、当然のように「譲渡不適」による殺処分としてカウントされています。これこそ「管理上の理由」にカウントすべきです。

 

※1  https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1098612X19895940

※2 “Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition” ,p339

※3 AAFP(アメリカ猫臨床家協会)も、ASV(シェルター獣医師会)も、レトロウイルス感染のみを理由とした猫の安楽殺を推奨していません。