犬猫の譲渡を保健所が行っている自治体がありますが、そもそも犬猫の譲渡は保健所の業務なのでしょうか。保健所の業務については、地域保健法(昭和22年法律第101号)第6条と第7条で定められています。第6条で定められた14業務は、保健所が「行わなければならない」業務で、第7条で定められた4業務は「行うことができる」業務です。そこには「犬猫の引取りや譲渡」といった項目はありません。しかし一般に「保健所が犬を捕まえる」というイメージがあろうかと思います。これはどういうことかというと、法定14業務の中にこういう項目があります。
十二 エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防に関する事項
この「伝染病」の中には、狂犬病その他の人獣共通感染症も含まれます。狂犬病予防法は厚生労働省の管轄であり、それに基づく業務は保健所(ほとんどは保健所に所属する狂犬病予防員)が実施します。具体的には
・第6条に基づく「犬の捕獲、抑留、返還、処分」
・第8~17条の2に基づく「発生時措置」
・第21条に基づく「抑留所の管理」
といった業務が保健所で実施されます※。「処分」については法制定時には殺処分を意味していましたが、時代の変化により譲渡というオプションが加わりました。つまり、狂犬病予防法第6条の規定により予防員が捕獲し抑留した犬については、譲渡も保健所の業務となります。それ以外の、例えば動物愛護法第35条の規定に基づき引取った犬猫や、第36条の規定により収容した犬猫の管理や譲渡は保健所の業務ではありません。ただし抑留対象ではない生後3か月未満の子犬を除き、動愛法の規定により引取られた飼い主不明の犬であっても、本来であれば予防員が捕獲し抑留しなければならなかった犬ですから、予防員が捕獲した体でそのまま狂犬病予防法の手続きに移行することに問題はないでしょう。つまり飼い主不明の犬を保健所で譲渡することは、保健所業務に含まれるといえます。
しかし生後3か月未満の子犬や、飼い主から引取った犬、そして(飼い主の有無を問わず)引取った猫の保管や譲渡は、明らかに保健所業務からは外れます。速やかに動物愛護管理センターに移送し、適切な管理を行うべきです。また飼い主不明の犬の譲渡についても、センターで行うことが望ましいといえます。なぜなら、譲渡にはある程度のスキルが必要だからです。譲渡は抑留所にいる犬猫を新しい飼い主に引き渡してそれで終わりという単純な作業ではありません。そもそも譲渡は保健所業務として想定されていないため、譲渡に精通した職員が各保健所に配置されているとは限りません。その結果、慣れない職員による安易な譲渡が行われてしまうおそれがあるのです。
※自治体によっては、これらの業務を動物愛護管理センターに委任しているところもあります。