譲渡適性とマッチング

適正譲渡の4本柱のひとつが「適性ある動物を譲渡する」です。この「適性」がクセ物で、「適性がない」ことは、今でも殺処分の口実とされています。しかし譲渡適性についての考え方は、近年変わりつつあります。

かつて「適正譲渡」は、模範的な飼い主候補を審査で選び、その人に非の打ちどころのない動物を譲渡することであると信じられていました。犬猫の譲渡適性は「誰にでも問題なく譲渡できる」ことが前提とされ、それ以外の犬猫は殺処分されていました。しかし飼い主候補の審査を厳しくすることで、犬猫を求める人たちが「適正譲渡」を敬遠し、安易な譲渡やペットショップでの購入に流れてしまう傾向があり、また「誰にでも問題なく譲渡できる」と言い切れない、少しでも難がある犬猫は容赦なく殺処分されてしまうという問題もありました。そこで生まれたのが「マッチング」という考え方です。つまり「模範的な人物と非の打ちどころのない動物とを引き合わせる」のではなく、「動物の特性を見極め、それに見合った飼い主を募集する」ことが主流になりました。かつて譲渡適性がないとして殺処分されていた、多少性格に問題のある犬やFIV陽性の猫であっても、譲渡先を選べば譲渡が可能であるという考え方が生まれたのです。

マッチングにおいては、その動物を飼うのにふさわしい人物であるか否かが最大の選定基準になります。もちろん譲渡希望者がペットを飼える住居環境にあるか、ペットを飼うための経済的余裕があるかといった基本的な審査は必要です。マッチングを行うには、あらかじめ譲渡動物の特性を見極めておくことが必要ですし、譲渡希望者との時間をかけた面談も必要です。これらが適切に実施されない場合、ミスマッチが生じるおそれがあります。すなわち、その動物を飼うのにふさわしくない人に譲渡してしまうということが生じてしまいます。

また入念にマッチングを実施したとしても、ミスマッチの可能性はゼロではありません。マッチングの検証のためにも、譲渡後のアフターフォローは必須です。譲渡した動物と、譲り受けた飼い主の双方が幸せに暮らしていることを見届けるまでが譲渡であると私は考えています。

マニュアルによって「譲渡適性」を一律に判定し、間違いない動物だけを機械的に譲渡するのであれば、さほど手間はかからないかもしれません。しかしそれでは殺処分は一向に減りませんし、動物たちのためにもなりません。また多忙な保健所が「適正譲渡」にまで手が回らないとすれば、そのプロセス自体を動物愛護団体に丸投げするようなことが起こってきます。適正譲渡のスキルを持った動物愛護団体への丸投げならまだしも、そうでない場合には不適切譲渡の温床になり、動物たちを不幸にしてしまうおそれがあります。