不適切譲渡の例

譲渡希望者の調査やマッチング、アフターフォローを怠ることは、不適切譲渡につながります。不適切譲渡によって最も傷つくのは、他ならぬ譲渡された動物たちです。安易な譲渡によって何が起こるのか、実話をもとにお話しします。

 

マッチング不足 

高齢男性から「数か月前に保健所から子犬を引きとったが、大きくなって世話ができないので新しい飼い主を探してほしい」という依頼が動物愛護管理センターにありました。話をよく聞くと、2か月齢の子犬を見て「これなら飼える」と思ったそうで、保健所も普通に譲渡したそうです。この子犬は野犬の子で、成長すると少なくとも中型犬以上にはなります。引取って数か月後に思いのほか成長し、手に余ってしまったのでしょう。最初は譲渡した保健所に引取りを求めましたが、終生飼養が原則で念書にもサインしているため、自分で新しい飼い主を探すように言われ拒否されました。なんとか新しい飼い主を探すことができましたが、もしそのまま老夫婦のもとに子犬が残されたらと考えるとぞっとします。高齢者に子犬や子猫を譲渡してしまうのは、ミスマッチの典型例です。高齢者なら一律にダメというわけではなく、犬の世話ができる親類が近所に住んでいたりすればいいとは思いますが、高齢者に、特に子犬や子猫を譲渡する際には注意すべきです。

 

不十分な身辺調査

若い女性から「数か月前に保健所から子犬を引きとったが、飼えなくなったので引取ってほしい」という依頼が動物愛護管理センターにありました。話を聞くと、子どもが「犬が欲しい」というので、保健所ならタダでもらえると聞き引取った。自分は子どもが3人いて、生活が苦しく生活保護を受けながら公営住宅に住んでいる。犬が大きくなって管理人にバレそうなので今すぐどうにかしたい、というわけです。地元の保健所に引取りを求めましたが、当然のことながら拒否され、センターに泣きついてきたわけです。この子犬も野犬の子で、4~5か月齢になれば少なくとも集合住宅の室内で飼うのは無理です。キレそうになるのを抑えながら、自分で新しい飼い主を探すよう説諭し、もしどうしても見つからなければ手伝うと伝えたところ、その後連絡はありませんでした。いくら安直な譲渡とはいえ、公営住宅に住んでいる生活保護受給者だとわかっていて譲渡することはあり得ません。おそらく嘘をついて譲渡を受けたのでしょう。しかしこの女性が恐ろしいほど思慮の浅い人物であることは、電話で数十秒話しただけでわかりました。「この人物は怪しい」と思ったら、何らかの口実を付けてそれとなく譲渡を断るべきです。かわいそうなのは、せっかく子どもたちと仲良くなったのに引き離されてしまう子犬であることは言うまでもありません。

 

その他「里親詐欺師」(虐待や転売を目的として譲渡を求める人)や「逃し屋」(最初から野に放つ目的で譲渡を求める人)といった悪質な人物もいるので、油断はできません。保健所業務の片手間の譲渡では、問題人物を見極める余裕などおそらくないでしょう。

私はなにも保健所譲渡という発想そのものが悪いといっているわけではありません。概して人里離れた山中に立地している動物愛護管理センターよりも、比較的交通の便が良い保健所で譲渡を行うことには相応のメリットがあります。しかし保健所には施設の問題や人的問題があり、またそれらが安易な譲渡につながるのであれば、実施の方法については一考の余地があると思います。