譲渡は「地産地消」で

私は職業上、元野犬の飼育相談を受けることが多いのですが、遠方の自治体から譲渡を受けた方がときどきおられます。かたやウチの自治体から遠方の方に譲渡することも多いです。遠方の方から「ホームページで見た犬を引取りたいが、そこまで行けないので輸送してほしい」との相談がよく寄せられますが、行政機関はそんなことはできません。どんなに遠方であっても来ていただき、直接お譲りすることにしています。しかしそれにも抜け道があり、地元の動物愛護団体が犬猫を保健所から引き出し、その団体が譲渡したという体で輸送することが横行しています。

「広域譲渡」ともっともらしい言い方をしていますが、私はたとえ直接引き渡したとしても、遠方の方への譲渡には反対です。それにはいくつかの理由があります。

 

不十分なマッチング 

譲渡希望者は、遠方からそのためだけにやって来ます。手ぶらで帰ることなど想定していません。マッチングのために様々な質問をしたところで、適当に話を合わせるでしょう。儀礼的なマッチングによって、安直な譲渡が行われるのです。

また動物愛護団体が引き出して即時輸送するようなやり方では、マッチングもへったくれもありません。

 

アフターフォローが困難 

遠方の方への譲渡は、前述のとおりマッチングが消化不良で終わりがちです。そういう場合こそアフターフォローが必要なのですが、遠方だとなかなか難しいのが現状です。またNBA(譲渡前避妊去勢手術)未実施で譲渡する際には、譲渡後の手術の実施状況の確認と未実施の場合の指導が不可欠です。NBA未実施の動物を遠方の方に譲渡することは、「垂れ流し譲渡」のそしりを受けても仕方がないと思います。

 

感染症蔓延のおそれ 

遠方への譲渡は、局地的な動物の感染症を広げる可能性があります。例えばパルボウイルス感染症やバベシア症などの流行地で捕獲された野犬の場合、その犬が感染源になるおそれがあります。

 

私は犬猫の譲渡は「地産地消」が原則であると考えています。遠方への譲渡はアフターフォローが困難という決定的な欠点があります。しかし特に人口が少ない地方では、地元だけでは譲渡しきれないという事態も起こるでしょう。そのため、遠方への譲渡などということが発生するのです。

2020年に島根県で発生した犬の多頭飼育崩壊の事例では、地元だけでは譲渡しきれないため、全国の自治体に対して犬の受け入れ依頼がありました。他の自治体が受け入れ、そこから譲渡するという形を取ればアフターフォローも可能です。この事例は緊急避難的なものでしたが、こういった交流を地方と都市部の自治体で実施できれば、怪しげな遠距離譲渡も解消できるのではないかと私は考えますが、どうでしょうか。