譲渡のための輸送

他の自治体に動物を輸送する際には、比較的譲渡が容易な動物を選択すべきであると前回述べましたが、譲渡の容易さは地域によっても異なりますので、ここがうまくかみ合えば動物の輸送は譲渡促進の強力なツールになります。

米国で譲渡促進目的で動物を輸送することが一般的になったのは1980年代です。各アニマルシェルターの努力により、少なくとも子犬に関しては譲渡が進み、安楽殺数も大幅に減少していました。その結果、譲渡の「需要と供給」のバランスを考える必要が出てきました。譲渡対象の犬を多く抱えている地域が、譲渡のニーズも高いとは必ずしもいえないからです。譲渡のニーズを把握し、そのニーズに合った動物をそこに輸送することにより譲渡を促進するという発想が生まれたのです。

まず「ブリードレスキュー」といわれる、特定の犬種に特化したレスキューグループが、公営シェルターから対象犬種を引き出すことから始まりました。米国では公営シェルターに持ち込まれる犬の2~3割は純血種であるといわれています。ブリードレスキューが特定犬種を引き出すことにより、シェルターはその分他の犬を受け入れることができます。ブリードレスキューやその周辺には、その犬種に興味を持つ人たちが集まっています。そこに対象犬種を輸送することは、譲渡の促進に役立ちますし、特定犬種を求めている人にとっても、希望の犬種が安価で入手できるという点でメリットがあります。また、ブリードレスキューは特定犬種に特化しているため、その犬種特有の性格や健康の問題について熟知していて、適切な飼養管理や譲渡が可能になります。

同じ頃、ニューヨーク州のNorth Shore Animal League(当時)※2は、州内の公営シェルターから小型犬や純血種、子犬などを引き出し、施設が整ったロングアイランドのシェルターに移動させ、そこで譲渡を行うようになりました。いわば動物輸送のはしりともいえますが、1990年代にはその対象は全米や海外にまで広がりました。North Shore Animal Leagueは、各シェルターの過密状態を解消するために比較的譲渡が容易な動物を引き出し、都市部で積極的に譲渡を行うというスタイルを確立させたのです。

これは非常にうらやましい話です。ウチの自治体でも、犬猫の譲渡先は地元よりも首都圏や関西圏の方が多かったりします。無秩序な遠隔譲渡を防ぐ意味においても、日本でも譲渡動物の自治体間輸送について、本気で議論を始める必要があると思います。

 

※ この項の執筆にあたっては、ZawistowskiとMorris(2013) “Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”,9pを参照しました。

 

※2 1944年に設立された、自称世界最大の動物譲渡団体。現在はNorth Shore Animal League Americaと改称されている。