譲渡対象の動物を他の自治体や動物愛護団体に「移転」するためには、それなりの獣医学的処置が必要です。一般的に動物管理機関で実施される獣医学的処置は「健康診断」と「ワクチン接種」および「駆虫」です。
健康診断の目的
動物管理機関に引取られた動物については、その時点で健康診断が行われます。それは譲渡適性やケアの方針を判断するためですが、輸送を前提にした場合、次の目的が加わります。
・輸送に耐えられる健康状態であるか否か
・輸送先が設定する譲渡適性に合致するか否か
ANMA(米国獣医師会)によると、動物輸送の際の健康診断は法定のものとは別に、輸送の24時間以内に行う必要があります※。
健康診断の方法
動物管理機関における動物の健康診断については定法というものがないため、ウチの自治体で行っている方法について記述します。動物管理機関における健康診断は、動物病院におけるそれとはかなり異なります。飼い主のいない犬や猫はペットというよりも、むしろ野生動物に近いからです。ペットに対しては容易な各種検査も、彼らにとってはストレスになります。ですので視診および、必要に応じ触診を行います。触診もストレスになりますので注意が必要です。
体重・年齢・性別(および避妊去勢の有無)といった基礎情報は重要ですが、体重や年齢については目測の場合もあります。またボディコンディションスコア(BCS)により栄養状態を推定します。
続いて全身を観察します。主なチェックポイントは下のとおりです。
・感染症の症状の有無(鼻汁、目脂、くしゃみ、咳、嘔吐、下痢、食欲不振、沈うつ、脱水、発熱)
・目、耳、口、歯、粘膜
・痛みや不快の有無(異常行動の有無、歩様の判定)
・皮膚のチェック(脱毛、炎症、特異的病変、しこり、ノミやダニの寄生)
必要に応じて、以下の検査を行います。
・胸部の聴診
・体温、脈拍、および呼吸数
もちろんこれらのデータはすべてカルテに記録し、その写しを輸送先に提供する必要があります。
感染症の簡易検査
ウチの自治体もそうですが、感染症の簡易検査については、症状が疑われる場合にのみ実施しています。しかし動物を輸送する場合、輸送の可否の判断および輸送先への配慮として、犬であれば犬糸状虫、猫であればFeLV(猫白血病ウイルス)やFIV(猫免疫不全ウイルス)の簡易検査は実施しておくべきでしょう。流行地においては犬パルボウイルスやバベシアなどの検査も必要かもしれません。
健康診断の平準化
前述のとおり、収容動物の健康診断には定法がなく、各自治体の担当者が自ら勉強して行っています。私は”Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”を参考にしています。動物の輸送を前提に全国的な平準化を図るため、国がガイドラインを示してくれるとありがたいのですが。
※ https://www.avma.org/sites/default/files/2020-03/AWF-TransportAdoptionBestPractices.pdf