動物輸送における感染症対策の例

動物の輸送には感染症蔓延のリスクがあります。ここでは米国で犬の輸送の際に犬糸状虫の蔓延を最小限に抑えるための、米国犬糸状虫学会(American Heartworm Society)のガイドライン※1を紹介します。

 

検査の実施 

輸送対象の、生後6か月を超えるすべての犬に対して、ミクロフィラリア(Mf)とフィラリア抗原(Ag)の検査を実施します。ただし定期的に予防薬が投与されていて、Agが陰性の犬については、Mfの検査を省略できます。検査不能、または検査結果が無効の場合は検査が完了するまで輸送を延期することが望ましいですが、延期できない場合は感染していることを前提に「移転を延期できない場合」に準じた処置を行います。その際、検査を行うことなくドキシサイクリンを投与することは推奨されません。

 

陰性の場合 

そのまま移転を進めます。輸送前に予防薬を投与し、6か月以内(定期的に予防薬が投与されていることが確認できる場合は1年以内)に再検査を行います。

 

陽性の場合 

移転を再検討し、AHSのガイドラインに従って治療を開始します。犬糸状虫症に起因する臨床症状を示す犬は、治療によりその症状が消失するまで輸送してはいけません。またメラルソミン二塩酸塩※2の投与を受けた犬は、移転に伴うストレス防止と運動制限のために、注射後少なくとも4週間は輸送してはなりません。

 

陽性であるが、移転を延期できない場合 

AHSはアニマルシェルターにおける譲渡促進のために犬を移転させることの必要性については理解していて、フィラリア陽性の犬の輸送を一概に禁止せず、以下の処置を推奨しています。

 Mf陰性、Ag 陽性の場合 マクロライド系抗生物質(イベルメクチンなど)を投与したのちにドキシサイクリンによる治療を開始し、Mfの発生を抑えます。7日後に再度Mfの検査を実施し、陰性であれば移転を進めます。陽性の場合は7日後に再検査するか、次の「Mf陽性の場合」に準じます。

  Mf陽性、Ag陽性または陰性の場合 次のいずれかの処置でMfを駆除し、移転を進めます。その後ドキシサイクリンによる治療を開始します。

・モキシデクチンの局所製剤(「アドボケート」など)の投与(Mfの駆除)

・マクロライド系抗生物質を、蚊に効果があるとされる犬用局所忌避剤と併用する(蚊に刺されないようにする)

・輸送の少なくとも24時間前に、マクロライド系抗生物質をイソキサゾリン系駆虫薬(「ネクスガード」など)と一緒に投与する(刺した蚊を殺す)

 

フィラリア陽性の犬が安全に輸送されたら、AHSガイドラインに従ってフィラリアの治療をできるだけ早く完了する必要があります。

検査結果や必要に応じて投与された薬物についてはすべてカルテに記録し、輸送先に提供する必要があります。

 

※1 https://d3ft8sckhnqim2.cloudfront.net/images/ASV_AHS_Relocation_20April21.pdf?1618951627

※2 メラルソミン二塩酸塩はフィラリア成虫の駆除によく用いられている薬物ですが、日本では入手困難です。