TNRと保護のはざま

International Cat Careは、飼い主のいない猫を譲渡適性という観点で2つに分類しています。「人間との生活に不向きで、かえってストレスになる猫」と「野外生活に不向きで、人間による庇護が必要な猫」です。前者はTNR(Trap-Neuter-Return)により段階的かつ人道的に個体数を減少させる、後者は保護し譲渡するという考え方です。もちろんそれらの「中間者」も存在しますが、この2者は別の種類の動物と考え対応したほうがよいかもしれません。飼い主のいない猫のすべてにTNRを実施し野に放てばよいというものでもありませんし、すべての猫を保護し譲渡することは、人慣れしない猫が家庭に入ることにより新たな悲劇を生む可能性があります。

猫の殺処分を回避する、いわゆる保護活動という観点からはどちらも同じかもしれませんが、「TNR活動」と「保護活動」は明確に区別する必要があります。そもそもTNRは猫の保護活動の一環として始まりました。野外にいる猫はすべて捕まえるべきだというのがかつての考え方で、そのほとんどが殺処分されていました。それを良しとしない人たちが、人道的に野良猫の数を減少させる手段として開発したのがTNRです。当初TNRは「猫好きによる猫好きのための活動」と捉えられていましたが、それが主要先進国において市民権を獲得した要因はやはり、TNRが単なる猫の保護活動に留まらず、猫の繁殖行動に起因する迷惑行為を軽減し、地域の生活環境を改善させるところにあるのだと私は思うのです。そしてその考え方を先鋭化したのが日本の「地域猫活動」です。つまり地域の生活環境を改善しながら、人道的に野良猫の数を減らしていこうというのがTNR(または地域猫活動)の考え方なのです。

少し前に、TNRよりも野良猫を減少させる効果が高いという理由でTHVR(Trap-Hysterectomy- Vasectomy- Return:子宮摘出・精管切除術)が提唱されましたが、手術が煩雑であることに加え、性腺を温存することで野良猫の性行動(尿スプレーやけんかなど)も温存され、地域の生活環境の改善につながらないことが指摘されています。そのため、世界の主要な動物福祉団体は猫のTHVRについて否定的です。

猫の保護活動として見れば、TNRも保護・譲渡もTNRe(Trap-Neuter-Release)もSNR(Shelter- Neuter-Return)もサンクチュアリにおける終生飼養も同じじゃないかと思われるかもしれませんが、地域の生活環境保全を目的のひとつとした活動はTNR (および百歩譲ってSNR)のみです。TNRが猫の保護活動の一部とみなされてしまうことは、猫に関心がない人たちの理解が得られにくいため、TNR普及の障害となります。しかし一方、TNRのオプションとして保護や譲渡もあるべきだと私は思います。捨て猫や迷い猫といった元飼い猫は、野外で生きていくのは難しいでしょうし、彼らに真空効果を防ぐための門番を期待するのも酷でしょう。両者をうまく使い分けるのが肝要だと思います。