TNRと保護の理念的な違いもさながら、両者の法的問題についても整理しておく必要があります。米国では「TNRは遺棄に該当し違法」という理由でTNRに反対する人たちがいますが、日本の法律ではどうなっているのでしょうか。
動物愛護法第44条第3項ではこう規定されています。
愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
ここで「愛護動物」とは、「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」「前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」のことです。つまり「人が占有している」か否かにかかわらず、猫を「遺棄」することは違法です。
では「遺棄」とはどのような行為を指すのか、具体的には環境省の通知「動物の愛護及び管理に関する法律第44条第3項に基づく愛護動物の遺棄の考え方について(平成26年12月12日付け環自総発第1412121号)」に記されています。
この通知によると、「遺棄」については
1 離隔された場所の状況
2 動物の状態
3 目的
の3要素によって判断するとされています。ここで「離隔」とは「移転又は置き去りにされて場所的に離隔」することをいいます。
猫について簡単に言うと、
① 飼い猫は人間の保護が必要なため、どのような場所に離隔しても「遺棄」
② 野良猫であっても、生命・身体に対する危険に直面するような場所に離隔すれば「遺棄」
③ 生命・身体に対する危険を回避できない又は回避する能力が低いと考えられる状態の猫(幼齢や負傷など)は、どのような場所に離隔しても「遺棄」
④ 法令に基づいた業務又は正当な業務として、処置後の猫を生息適地に放つ行為は「遺棄」に該当しない
ということになります。
④は自治体が動物愛護法第36条第2項の規定に基づいて収容した負傷猫を、治療後にリターンするような場合を想定していますが、TNRは地域の生活環境保全のために野良猫に避妊去勢手術を施しリターンする行為ですから、「正当な業務」とみなされ「遺棄」には該当しないというのが自然な考え方です。もっとも、麻酔から完全に醒めていないような状態の猫をリターンすれば③が適用され、「遺棄」に該当しますので注意が必要です。