野良猫「引取り拒否」から1年 ③「引取り拒否規定」の解釈

「引取り拒否規定」の制定

動物愛護法の令和元年改正で、都道府県等が「所有者の判明しない犬又は猫」の引取りについて、条件付きながら拒否できるという規定が追加され、令和2年6月1日から施行されました。これまでは「所有者の判明しない犬又は猫」について、都道府県等は無条件で引取らなければならないとされていましたが、引き取りを拒否する「ことができる」条件について明示されたのです。本来であれば生の条文を引用するところですが、準用規定なので無駄に長くなってしまいますので、読み替えた状態でお示しします。

 

第三十五条(同条第三項にて準用) 都道府県等は所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。

 

環境省令(動物の愛護及び管理に関する法律施行規則)ではこう規定されました。

 

第二十一条の三 法第三十五条第三項において読み替えて準用する同条第一項ただし書の環境省令で定める場合は、次の各号のいずれかに該当する場合とする。

一 周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合

二 引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合

 

実を言えばこれは改正でもなんでもなく、従来の取り扱いを明文化しただけです。また、この条文を裏読みすると「周辺の生活環境が損なわれる事態が生じるおそれ」がある場合には「引き取らなければならない」と読めます。これは「駆除目的の引取り」を都道府県等に義務付けるものですが、前述のとおり、環境省は「駆除目的の引取り」は「やむを得ない」と考えていますから、矛盾はありません。しかしそれを明言してしまうと後が怖いので、環境省は「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について(平成18年環境省告示第26号)」にこう記述し、お茶を濁しました(赤字筆者)。

 

1 (中略)また、都道府県等は、この引取り措置は、緊急避難として位置付けられたものであり、今後の終生飼養、みだりな繁殖の防止等の所有者又は占有者の責任の徹底につれて減少していくべきものであるとの観点に立って、引取り又は引取りの拒否を行うように努めること。

(中略)

3 都道府県知事等は、所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められたときは、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがあると認められる場合又は動物の健康や安全を保持するために必要と認められる場合は、引取りを行うこと。ただし、当該事態が生ずるおそれがないと認められる場合など相当の事由がないと認められる場合にあっては、この限りではない。(以下略)

 

つまり、「駆除目的の引取り」は本来であれば動物愛護上認められないのだけれど、将来的には引取り対象の動物は減っていくはずだから、現時点においては「緊急避難」として法の規定に基づき粛々と引取りを行え」ということです。野良猫の個体数を減らすために「やむを得ない」引き取りを粛々と実行し、できるだけ殺処分することなく譲渡してほしいというのが環境省の本音なのです。

しかし各自治体にとっては、目先の猫の引取り数を極力減らして、職員の負担の軽減と殺処分数の削減を図りたいというのが本音です。多くの自治体は「駆除目的の引取り」を拒否することで動物愛護法の規定を骨抜きにし、野良猫の引取りを事実上拒否することにしたのです。