「周辺の生活環境が損なわれている事態」
令和2年6月1日から「所有者の判明しない犬又は猫」について、都道府県等は「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合」等においては引取りを拒否できるようになりました。では、「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがある」か否かは、誰が判断するのでしょうか。動物愛護法第25条に「周辺の生活環境が損なわれている事態」という記述があります。その条文を見てみましょう(赤字筆者)。
第二十五条 都道府県知事は、動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によつて周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができる。
環境省令(動物の愛護及び管理に関する法律施行規則)にはこう書かれています(赤字筆者)。
第十二条 法第二十五条第一項の環境省令で定める事態は、次の各号のいずれかに該当するものが、周辺地域の住民(以下「周辺住民」という。)の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態及び周辺住民の日常生活に特に著しい支障を及ぼしているものとして特別の事情があると認められる事態とする。
一 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴い頻繁に発生する動物の鳴き声その他の音
二 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴う飼料の残さ又は動物のふん尿その他の汚物の不適切な処理又は放置により発生する臭気
三 動物の飼養施設の敷地外に飛散する動物の毛又は羽毛
四 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水により発生する多数のねずみ、はえ、蚊、のみその他の衛生動物
これらのことから、「周辺の生活環境が損なわれている」ことが周辺住民の共通認識となっているか、もしくはそうでないにしても第三者が「これはひどい」と認識できるような事態こそが「周辺の生活環境が損なわれている事態」と言えるのではないかというのが私の見解です。
ただ「おそれがある」か否かについての判断については非常に難しいものがあります。例えば個人的に「庭に入ってきて迷惑だ」というレベルであれば引取り拒否は可能でしょうが、一般的に「周辺の生活環境が損なわれている事態」にまで至る可能性について予見することは極めて困難です。予見できない以上、「おそれがある」として引取らざるを得ないという考え方もありますし、事態発生の一歩手前まで様子を見るという考え方もあるでしょう。ほとんどの自治体は後者のスタンスを取っていますが、環境省は「一律に国で基準を示すことは難しい」として「地域の実情等を踏まえて、各自治体において判断されるべきもの」としています。