「原則引取り拒否」にかじを切った各自治体
動物愛護法の令和元年改正で、都道府県等が「所有者の判明しない犬又は猫」の引取りについて、条件付きながら拒否できるという規定が追加され、令和2年6月1日から施行されました。引取り拒否してはならない場合についてはこう規定されています※1。
①周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがあると認められる場合
②動物の健康や安全を保持するために必要と認められる場合※2
の2つです。前述のとおり、多くの自治体は「駆除目的の引取り」を拒否することにより①を骨抜きにするという方針を取っています。ですので、②の場合のみ「やむを得ず」引取るということになります。
それ以外の場合は引取り拒否できるのですが、拒否しなければならないわけではありません。それでも各自治体が「自活可能な所有者不明猫」の引取りを拒否している理由は、引取り数の減少ひいては殺処分数の減少の観点です。愛媛県(中核市の松山市を含む)は、猫の引取り数・殺処分数が非常に多いのですが、これらの猫の引取りを拒否すると明示しています※3。
・駆除目的に捕獲した猫
・TNR活動や地域猫活動の猫
・飼い猫(簡単に捕まえられたり、首輪などの飼い猫であることを示す処置がされていた形跡がある場合)
これは実質的な「自活可能な所有者不明猫」の全面引取り拒否です。そこまで切羽詰まっている自治体があることもご理解いただきたいと思います(愛媛県の惨状については「事務提要」をご参照ください)。
「引取り拒否」してはならない理由
しかし引取り拒否は「できる」のであって、「しなければならない」わけではありません。引取り拒否しないという選択肢もあるはずです。それどころか、引取り拒否の必要がない状況が理想ともいえます。環境省も言っているように、各種施策の実行によって犬猫の引取り数そのものは減少していくはずですし、していかねばなりません。
私は、引取り拒否してもよいのは地域猫等の「さくらねこ」だけで、所有者不明の猫は原則引取るべきだと考えています。その理由は次のとおりです。
・繁殖可能な野良猫を野外に放置することは単なる問題の先送りどころか、事態を悪化させるおそれがある。
・純粋に保護目的で引取りを求める人の善意を無にしてはならない。
・駆除目的で捕獲された野良猫こそ、引取らなければ遺棄や虐待につながる可能性がある。
・飼い猫(迷い猫)は保護し飼い主に返還する(もしくは譲渡する)のが本来の姿である。
しかし引取り拒否を行う自治体の事情もよくわかります。私は「粛々と引取れ、でも殺処分はせずに譲渡しろ」と言わんばかりの環境省の姿勢には正直うんざりしています。そんなことを言っているから、自治体による安直な「垂れ流し譲渡」がなくならないのです。そもそも引取らねばならない猫を減らすための方策、例えばTNRや地域猫活動などに法的根拠を持たせることや財政支出を伴わなければ、「緊急避難」としての猫の引取りは永遠に続きます。
※1 「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について(平成18年環境省告示第26号)」
※2 元の場所に戻すことが動物愛護法上の「遺棄」に該当する場合をさします。離乳前の子犬や子猫についても、求められれば引取らざるを得ませんが、殺処分の可能性が高いので、ウチの自治体ではしばらく様子を見ていただき、離乳後に保護し持ち込むようお願いしています。
※3 https://www.pref.ehime.jp/h25300/doubutuaigo/nekosyuutoku.html