駆除目的で野良猫が捕獲され自治体に引取りを求められた場合、引取りを拒否する自治体がほとんどであると思いますが、私個人の意見としては、駆除目的で捕獲された猫こそ、自治体が引き取らなければあとで恐ろしいことになるのではないかと危惧しています。もちろん「捕獲すれば引き取ってもらえるのか」と相談を受けた場合、それはできない旨を説明し人道的な対策をアドバイスすることは必要であると思います。しかしすでに駆除目的で捕獲されている猫の引取りを拒否した場合、その猫がどうなってしまうかという視点も必要です。駆除目的で捕獲した猫の引取りを求めるような人が、引取りを拒否されたからといって、せっかく捕獲した猫を素直にリターンするとはとても思えません。仮にリターンしたとしても、繁殖可能な猫を野に放つことに対する懸念は残ります。
とはいえ、引取った猫をどうするかという問題は残ります。人慣れしていない猫が自治体に引取られると、多くの場合「譲渡不適」と判断され、殺処分されます。譲渡不適の真の野良猫を殺処分することなく人道的に処遇するために、さまざまな方法が試みられています。
譲渡可能な状態まで馴らし、譲渡
人慣れしない猫を譲渡可能な状態まで馴らすことは可能ですが、時間とスキルが必要です。猫をアニマルシェルターに長期滞在させることは推奨されませんし、そのリソースを人馴れした猫の譲渡に集中させたほうがよいという考え方もあり、シェルターレベルではあまり行われていません。しかしそういった猫を民間団体が引き出し、預かりボランティアを活用して馴らすということは行われています。
RTF(Return-to-Field)またはSNR(Shelter-Neuter-Return)
シェルターに保護された猫のうち、性格的理由で譲渡不適と判断された猫について、避妊去勢手術とワクチン接種ののちに元の場所に戻す方法です。
TNRel(Trap-Neuter-Release)
捕獲した野良猫を、避妊去勢手術とワクチン接種ののちに、捕獲した場所とは別の場所に放つ方法です。
TENVAC(Trap-Evaluate-Neuter-Vaccinate-Adopt-Contain)
性格的理由で譲渡不適と判断された猫について、避妊去勢手術とワクチン接種ののちにフェンスやネットで野外から隔離された「サンクチュアリ」で終生飼育する方法です。
日本において、上記の方法のうち譲渡以外は想定されていません。日本では、自治体に引取られた動物の「処分」についてこう規定されています。
保管動物の処分は、所有者への返還、飼養を希望する者への譲渡し及び殺処分とする。(「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について」平成18年環境省告示第26号)
そもそも、TNRなどによって野良猫の個体数を管理し、自治体が引き取る猫の数を減らすことが重要であることは言うまでもありません。しかしいったん引取られた猫の殺処分を減らすことに主眼を置くのであれば、RTFなどを検討してもよいのではないかと私は考えています。