日本でRTFは可能か?

米国においては、RTF(Return-to-Field;アニマルシェルターに収容され、性格的な理由で譲渡不適と判断された野良猫について、安楽殺を回避するために避妊去勢手術ののちに元の場所に戻すこと)によって、猫の安楽殺を減らす試みが行われています。

日本ではどうでしょうか。少なくとも私が知る範囲においては、日本の行政機関がRTFを実施しているという話を聞いたことがありません。もし日本の行政機関でRTFを実施するとしたら、どのような問題が起こりえるのでしょうか。

日本においては、引取りや負傷収容によって行政機関が保管している動物(保管動物)の処遇について、RTFは想定されていません。環境省の通知によると「保管動物の処分は、所有者への返還、飼養を希望する者への譲渡し及び殺処分とする。」(「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について」平成18年環境省告示第26号)とされていて、保管していた猫を元の場所に戻すことは想定されていないように読めます。

ただし、「動物の愛護及び管理に関する法律第44条第3項に基づく愛護動物の遺棄の考え方について」平成26年12月12日環自総発第1412121号)において、動物愛護法第36条第2項の規定に基づいて収容した負傷動物等を治療後に生息適地に放つことについては「正当な業務」として「遺棄」にあたらないとされています。法第36条の対象となるのは「犬、猫等の動物」ということを考えると、負傷収容した所有者不明猫を治療後に元の場所に戻すことは想定されていて、それを環境省も認めているわけです。

自治体によるRTFも、環境省による通知等により「正当な業務」と認められれば可能であると考えられますが、そんなに甘くはないようです。なぜなら、下記のようなリスクがあるからです。

 

・野良猫を自治体に持ち込む理由の多くが「周辺の生活環境の保全」である。せっかく捕獲し引取ってもらった野良猫が元の場所に戻されることに対し、引取り依頼者は納得しない。またRTFに起因するさらなる環境被害が生じた場合、自治体の責任が問われかねない。

 

・土地勘のある地元のボランティアが野良猫の捕獲を行うTNRとは異なり、自治体が引取る「所有者不明の猫」は、飼い猫であるか否かがよくわからないことが多い。所有者がいる猫に無断で避妊去勢手術を施すことは、器物損壊罪に問われる可能性がある。

 

また自治体によって差はありますが、行政機関による犬猫の避妊去勢手術のリソースが貧弱であり、RTFにまで対応できないという現実もあります。このように、日本においては自治体によるRTFは難しいと言わざるを得ません。

現実的な対応としては、自治体が野良猫を引取らざるを得ない状況になる前に、利害関係者に積極的に働きかけ、早めにTNRや地域猫活動に持ち込むのが無難といえるでしょう。早期に対処することにより野良猫に関する苦情を軽減できれば、そもそも引取る必要がなくなるからです。