なぜ避妊去勢手術を行わないのか

犬猫の避妊去勢手術を普及させるためには、飼い主が避妊去勢手術を行わない理由をリサーチする必要があります。米国においては、Makolinski(2013)が「避妊去勢手術への障壁」(Overcoming barriers to spay/neuter)として次を挙げています。

 

The cost of spay/neuter (避妊去勢手術の費用)

”Haven’t gotten around it” (余裕がなかった)

”Did not feel it was necessary(pet is confined in home)” (必要だと感じていなかった(ペットは家に閉じ込められている))

”Pet is too young” (ペットが若すぎる)

They intended to breed the animal (動物を繁殖させるつもりだった)

They were unaware of a spay/neuter program (避妊去勢プログラムを知らなかった)

They were unable to access the program (プログラムにアクセスできなかった)

※Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition(2013),580p

 

米国において、飼い主が犬猫の避妊去勢手術をためらう最大の理由は費用の問題であるとされています。そのため非営利団体や自治体によって「低価格」や「無料」のサービスが提供されています。また国土が広大な米国では「手術費用が高い」ことに加えて、「近くに動物病院がない」「避妊去勢手術についての情報がない」といった切実な理由もあります。そのため、アニマルシェルターがトレーラーを改装した「移動手術室」を製作して、動物病院やアニマルシェルターがない地区を巡り避妊去勢手術を行うようなサービスがあったりします。また「余裕がない」という人向けに、例えばショッピングセンターの駐車場に「移動手術室」を設置して、「買い物の間に避妊去勢手術ができます」なんてことをやっていたりもします。

日本においてはどうかというと、古い調査で恐縮ですが、「動物愛護に関する世論調査(平成22年9月)」という政府統計があります。それを見てみると、

https://survey.gov-online.go.jp/h22/h22-doubutu/index.html

 

「手術費用が高いから」「面倒だから」「手術する必要がないと考えるから」「まだ子犬(子猫)だから」「子犬(子猫)を産ませたいから」といった、おおむね米国と同じような理由が並ぶ中、日本の理由の上位には「自然のままがいいと思うから」や「かわいそうだから」という独特の理由が登場します。動物に対する考え方や生命観等については、当然のことながら日本人と西洋人との間に違いがあります。

米国式の「低価格サービス」や「移動手術室」ももちろん有効なのでしょうが、日本において犬猫の避妊去勢手術を普及させるためには、日本人が抱いている避妊去勢手術のマイナスイメージを払拭することから始める必要がありそうです。