ペットを飼うには、フードや医療費など何かとお金がかかります。そもそもペットはぜいたく品なのです。厳しいようですが、たった1回の数万円の出費をためらう人に、ペットを飼う資格はありません。そのあたりは過去の記事で書いていますので参照してください。ここでは、避妊去勢手術費用の公的補助について考えてみたいと思います。
避妊去勢手術への公的補助は「あり」か「なし」か
個人が飼っているペットの避妊去勢手術に補助金を出すことや、自治体によるNBA(譲渡前避妊去勢手術)に反対する人たち(おおむね行政関係者ですが)は、「ペットの繁殖制限は飼い主の責務であり、公金を支出すべきではない」と主張します。たしかにそれは正論です。しかし広い目で見ると、飼い犬や飼い猫を含む犬猫の避妊去勢手術が広く行われれば、自治体が引取らなければならない犬猫の数が減り、譲渡や殺処分にかかる費用を抑えることができます。これを財政学では「社会的便益」といいます。すなわち、個人の利益(便益)のための行為であっても、結果的に社会の利益(便益)につながるのであれば、社会の便益の分だけ公金を支出することはやぶさかではないという考え方です。わかりやすい例で言うと、新型コロナウイルスのワクチン接種が無料で行われている(接種者におみやげを渡している自治体すらあります)のも、個人の感染を防ぐという私的便益もありますが、感染拡大の防止という、コストに見合った社会的便益があるという判断からです。
生活困窮者が飼養するペット
「ペットはぜいたく品」とはいえ、お金に余裕のない人が拾った犬や猫を飼ってしまっているようなケースも多いのも現状です。そういうペットたちは獣医療も満足に受けられず、ネグレクト一歩手前の状況にあります。当然のことながら、避妊去勢手術の費用など出せるはずがありません。本当は新しい飼い主を募ったうえで手放してもらうのが筋なのでしょうが、やはり一定期間飼っていると愛着がわくもので、心の支えになっていたりして手放したくないという人も多いのです。
もちろん、飼われてしまった犬猫には何の落ち度もありません。自らの経済状況を顧みず、安易に犬猫を飼い始めた飼い主の責任であるのは言うまでもありません。しかしいくら強く責任を追及したところで、お金がわいてくるわけではありません。生活するにあたり何らかの公的支援を受けている人については、公衆衛生上の懸念もありますので(全額ではないにしても)公金で最低限の獣医療ケア(ワクチン接種、駆虫等)を提供してもよいのではないかと私は考えます。また避妊去勢手術の費用を補助する(または行政サービスとして実施する)ことは、個体数増加による行政コストの増大を未然に防ぐ観点から、実施されてもよいと私は思います。もちろんその際には適切な飼い主教育を受けていただき、不適切な飼養管理が見受けられたら自治体が引取るといった体制づくりが必要ですが。