Spay/neuter programは何が違う?

Spay/neuter programは獣医師が執刀する避妊去勢手術ではありますが、一般の動物病院で個人のペットに対して実施される手術とは異なる点があります。

 

目的の違い 

犬猫の避妊去勢手術は、望まない繁殖を防ぎ、繁殖行動を抑制し、生殖器系の病気を予防するための手術です。そのことに違いはありません。しかしSpay/neuter programには特別な目的があると米国獣医師会(AVMA)は述べています※。

 

In general, these clinics serve two purposes: one, they are part of a larger campaign to address pet overpopulation concerns; and, two, they are meant to provide these surgeries for clients who cannot otherwise afford them.

一般的に、これらのクリニックには2つの目的があります。1つは、ペットの過剰繁殖問題を解決するための大規模なキャンペーンの一環であること、もう1つは、これらの手術を受ける余裕のない依頼主に手術を提供することを目的としていることです。

 

またAVMAは、Spay/neuter programの実施主体は非営利団体や行政機関で、費用は寄付や税金でまかなわれているため低価格のサービスが提供できる(決して一般の動物病院が暴利をむさぼっているわけではない!)という点を強調しています。

 

術式の違い 

もちろんプログラムによっても異なりますが、低価格で提供されるSpay/neuter programの多くはHQHVSN(High-quality, high-volume spay-neuter)で実施されます。HQHVSNはTNRの際の一斉手術に用いられる術式で、リターン後の猫のアフターフォローが困難なため、極力侵襲が少ない方法で実施されます。そのため、手術は最低限の切開で行います。熟練した獣医師であれば手術自体は10分ほどで終わりますし、前処置や麻酔からの回復などを含めても、数時間で終了します。私が初めてHQHVSNの現場を見たとき、かなりのカルチャーショックを受けました。通常獣医師は、外科手術についてこういう教育を受けているはずです。

 

Great-surgeon, great-fieldという言葉が示すように、優れた外科医は大きな視野をつくり、術野を十分に直視しながら手技を行う。術野の小ささを競う「器用な外科医」ではなく「優れた外科医」を目指す。

(「勤務獣医師のための臨床テクニック」チクサン出版社、2004年、p108)

 

最低限の切開から子宮と卵巣を吊り出し切除する様はまさに「器用な外科医」そのものです。しかしそれは目的の違いによる術式の違いであって、どちらが「良い」「悪い」といった類のものではありません。ただひとつ言えることは、HQHVSNは獣医療先進国の米国において確立している手術手技であるということです。

 

フォローアップの違い 

一般の動物病院で個別に実施されるSpay/neuter programもありますが、多くのSpay/neuter programは効率性の観点から集合型で行われます。すなわち手術日を指定し、そこに獣医師を派遣して集中的に手術を行うのです。ですので、どうしてもフォローアップが手薄になりがちです。AVMAもこう述べています※。

 

These clinics may limit the amount of postoperative care provided, encouraging you instead to follow up with your veterinarian.

これらのクリニックでは、術後のケアが制限されている場合があり、獣医師によるフォローアップが必要となります。

 

※ https://www.avma.org/resources/pet-owners/petcare/low-cost-spay-or-neuter