アニマルシェルターにおけるエンリッチメント① エンリッチメントとは

かつて、特に日本人は「動物には最低限の給餌と給水を行い、生かしておけばよい」と考える傾向がありました。「狂犬病予防法」の規定に基づき行政機関に設置された「犬抑留所」はまさに、そういう考え方で設計されています。しかし最新の知見によると、そういうものではないことが明らかになっています。最近動物福祉の文脈で「エンリッチメント」という言葉をよく聞かれると思います。ASV(シェルター獣医師会)の”Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters”(2010)には” Enrichment and Socialization”という項があり、アニマルシェルターで行うべきエンリッチメントについて述べられています。このガイドラインに沿って、シェルターにおけるエンリッチメントについて考えてみましょう。

 

エンリッチメントとは何か

Enrichmentとは「豊かにする」という意味です。動物福祉の文脈で「エンリッチメント」とは、動物の飼育環境を「豊かにする」ことにより、動物の健康や幸福感(well-being)を高めていこうとするための様々な工夫のことをいいます。ですので、Environmental enrichment(環境エンリッチメント)と言ったりもします。エンリッチメントは動物園動物の世界で発展してきましたが、ここではアニマルシェルター等の保護犬や保護猫を対象としたエンリッチメントについて記述します。

 

「ガイドライン」ではこう定義されています。

 

Enrichment refers to a process for improving the environment and behavioral care of confined animals within the context of their behavioral needs. 

エンリッチメントとは、閉じ込められた動物の行動上の欲求に合わせて、環境や行動上のケアを改善するプロセスのことです。

 

そしてエンリッチメントは給餌や給水などと同じく、必須であるとされています。

 

Enrichment should be given the same significance as other components of animal care, such as nutrition and veterinary care, and should not be considered optional (ILAR 1996). At a minimum, animals must be provided regular social contact, mental stimulation and physical activity (ILAR 1996). 

エンリッチメントは、栄養や獣医学的ケアなどの動物ケアの他の要素と同じように重要視されるべきであり、オプションと考えるべきではありません。最低でも、動物には定期的な社会的交流、精神的刺激、身体的活動を与えなければなりません。

 

その具体的な方法として、「ガイドライン」ではこう記述されています。

 

・社会的交流(social contact):

人間との日常的交流(daily social interactions with humans )や訓練(Training programs)

・精神的刺激(mental stimulation):

採餌エンリッチメント(Feeding enrichment)やその他の精神的・感覚的刺激

・身体的活動(physical activity):

遊び(play)、例えばおもちゃや人間との交流(toys or human interaction)