エンリッチメントの始まり
エンリッチメントは、元々動物園動物のケアの一環として導入されました。動物福祉推進協会(The Association for Animal Welfare Advancement:SAWA※1)はこう述べています※2。
Enrichment was first introduced as an important component of animal care in zoos in the 1960’s. Caretakers and researchers began to acknowledge that the housing environments being provided to animals inhibited natural behaviors, created stress and inhibited natural development for newborn and young animals. Zoos shifted their focus to a desire to show how animals behave in their natural environment. In order to accomplish this, traditional housing had to change and research had to be done to determine how to encourage natural behaviors.
エンリッチメントが動物園における動物ケアの重要な要素として初めて導入されたのは1960年代のことです。飼育係や研究者は、動物に与えられている住居環境が自然な行動を阻害し、ストレスを与え、生まれたばかりの動物や若い動物の自然な成長を阻害することを認識し始めました。動物園は、動物が自然環境の中でどのように行動するのかを見せたいと考えるようになりました。そのためには、従来の飼育環境を変え、自然な行動を促すための研究をしなければなりませんでした。
エンリッチメントと「5つの自由」
ちょうどその頃、英国では家畜の人道的取り扱いの基準である「5つの自由」が策定されました。その後「5つの自由」は家畜だけではなく実験動物や伴侶動物など、あらゆる動物の人道的取り扱いの基準となり、当然のことながらアニマルシェルターにおける動物の取り扱いにも適用されていることは前述のとおりです。「5つの自由」とは
1. Freedom from Hunger and Thirst(飢えと渇きからの自由)
2. Freedom from Discomfort(不快からの自由)
3. Freedom from Pain, Injury or Disease(痛み、傷害、病気からの自由)
4. Freedom to Express Normal Behavior(正常な行動を発現する自由)
5. Freedom from Fear and Distress(恐怖や苦痛からの自由)
の5つを指しますが、SAWAによるとエンリッチメントはそのうちの2、4、5を担保するための手段と位置付けられています※。
A strong enrichment program will help to provide freedom from discomfort, freedom to express normal behavior and freedom from fear and distress.
強力なエンリッチメントプログラムは、不快からの自由、正常な行動を発現する自由、恐怖や苦痛からの自由を提供するのに役立ちます。
シェルターメディスンにおいて、エンリッチメントは収容中動物の福祉にとって欠かすことができないものになっていることは前述のとおりです。
※1 The Association for Animal Welfare AdvancementはかつてSociety of Animal Welfare Administrators(動物福祉管理者協会:SAWA)という名称でした。現在は改称されているので略称は”AAWA”なのでしょうが、”SAWA”の方が通りがよいのか、自ら略称を”formerly SAWA”(旧SAWA)としています。その意思を尊重し、本ブログではThe Association for Animal Welfare Advancementの略称を”SAWA”としておきます。
※2 ”Animal Enrichment Best Practice”SAWA(2017)