エンリッチメントの目的
エンリッチメントの目的について、ASVの「ガイドライン」※1にはこう記載されています。
The purpose of enrichment is to reduce stress and improve well-being by providing physical and mental stimulation, encouraging species-typical behaviors (e.g., chewing for dogs and rodents, scratching for cats), and allowing animals more control over their environment.
エンリッチメントの目的は、肉体的・精神的な刺激を与え、動物の典型的な行動（犬やげっ歯類では噛むこと、猫では引っ掻くことなど）を促し、動物が自分の環境をコントロールできるようにすることで、ストレスを軽減し、幸福感（well-being）を高めることです。
エンリッチメントは人間の都合で行うものではなく、あくまでも動物のストレス軽減とwell-beingの向上を目的とした、給餌や清掃などと同列の「当然の」ケアなのです。
エンリッチメントの効果
エンリッチメントの効果として、「ガイドライン」にはこう記述されています。
Successful enrichment programs prevent the development and display of abnormal behavior and provide for the psychological wellbeing of the animals.
エンリッチメントプログラムが成功すれば、異常行動の発生や発現を防ぎ、動物の心理的な安らぎを得ることができます。
その他、エンリッチメントはアニマルシェルターに様々なメリットをもたらします。Hartlage（2018）はこの7点を挙げています※2。
. Reduction of stress（ストレスの軽減）
. Reduction of behavioral deterioration（行動面における健康増進）
. Reduction of illness （病気の減少）
. Reduction of length of stay （収容期間の短縮）
. Present better for adoption （譲渡の推進）
. More engaged and observant workforce（スタッフの熱意と観察力の向上）
. Improvement of overall QOL（全体的なQOLの向上）
エンリッチメントにより動物のストレスが軽減されれば、心身の健康が増進されます。加えて、動物の「典型的な行動」が増加することは、その動物の行動的魅力を増すことにつながり、譲り受け希望者への訴求力が増します。それらが相まって動物の譲渡可能性が高まり、結果的に収容期間が短縮されます。収容期間が短縮することはシェルターのケア能力の向上をも意味します。またエンリッチメントはスタッフに対して動物へのさらなる関わりを求めるものであり、それはスタッフのモチベーション向上につながるばかりか、観察力を高めることにもつながります。それらは総合して、収容動物全体のQOL向上につながるのです。
※1 ”Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters”ASV(2010）
※2 ”Animal Enrichment Best Practices”ウェビナースライド
https://www.aspcapro.org/webinar/20180110/animal-enrichment-best-practices