アニマルシェルターにおけるエンリッチメント④ エンリッチメントの限界

エンリッチメントはいいことづくめのように見えますが、限界もあります。SAWA(2017)はエンリッチメントの限界としてこの2点をあげています※。

 

・アニマルシェルターは家の代わりにはならない

・エンリッチメントは行動治療の代替ではない

 

アニマルシェルターは家の代わりにはならない

適切なエンリッチメントが行われたとしても、シェルターが「ずっとのおうち」の代わりにはなるわけではありませんし、そうすべきでもありません。SAWA(2017)もこう述べています※(赤字筆者)。

 

Enrichment programs are designed and intended to promote and permit animals to express normal behaviors while in a shelter. Animal shelters are not intended, nor should they be used for long term or lifetime housing for companion animals. The best enrichment program will not overcome the need for companion animals to be in a home or natural environment.

エンリッチメントプログラムは、シェルター内で動物が正常な行動をとることを促進し、許可することを目的としています。アニマルシェルターは、コンパニオンアニマルのための長期的または生涯にわたる住居を目的としたものではなく、またそうすべきものでもありません。どんなに優れたエンリッチメントプログラムであっても、コンパニオンアニマルが家庭や自然環境で過ごす必要性に勝ることはありません。

 

ASVの「ガイドライン」には、動物を「長期」収容する場合のエンリッチメントについて特記されていますが、そもそも動物の長期収容は避けるべきというのがシェルターメディスンの考え方ですので、長期収容を前提とするのではなくやむを得ず長期収容になってしまった際の注意事項ととらえるべきです。

 

エンリッチメントは行動治療の代替ではない

行動治療は心理学的手法(補助的に薬物を用いることもある)を用いて行動を変容させていく(「好ましくない」行動の発現を減らし、「好ましい」行動の発現を増やす)プロセスであって、問題行動の予防または悪化防止を目指すエンリッチメントとは根本的に目的が異なります。しばしば誤解されがちですが、収容中の動物に問題行動の予兆がみられてから、あわてておもちゃを与えたりするようなことは珍しくありません。もちろんそれは本末転倒です。SAWA(2017)もこう明記しています※。

 

While enrichment may enhance behavior modification the two programs have different objectives and require different skill sets.

エンリッチメントは行動治療を促進する可能性がありますが、この2つのプログラムは目的が異なり、異なる知識や技能を必要とします。

 

※ ”Animal Enrichment Best Practice”SAWA(2017)