各自治体が「殺処分ゼロ」を競う中、保健所が引取った犬猫を動物愛護管理センターに移送することなく譲渡を行う「保健所譲渡」がいくつかの自治体で実施されています。ある自治体は「保健所譲渡」によって殺処分数を劇的に削減することに成功しました(こういった姑息な手段で「見た目の」殺処分数を減らすことの愚かさについては、過去の記事で散々述べたとおりです)。
「保健所譲渡」の問題点については過去の記事でも述べましたが、私が特に問題と思っているのは「不十分なマッチング」と「NBA(譲渡前避妊去勢手術)の未実施」ですが、さらに大きな問題があります。
保健所で犬猫を保管する際に用いられるのは「狂犬病予防法」の規定に基づき犬を抑留するための「抑留所」です。犬の抑留所は犬の公示期間(2日+1日)の間、犬を生かしておくための施設です。古い設計のものはエンリッチメントに配慮されていませんし、そもそも猫の収容は想定されていません。犬と猫を同じ檻に入れているような自治体はさすがにないでしょうが、犬が収容されている檻の前に、猫用ケージを置いて対応している自治体も実在します。
Association of Shelter Veterinarians(ASV)による、アニマルシェルターにおける動物のケア基準を定めた“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters”(2010)にはこう記述されています。
Because cats may be profoundly stressed by the presence and sound of dogs barking, they should be physically separated from the sight and sound of dogs.
猫は犬の吠え声に大きなストレスを感じることがあるため、犬の姿や音から物理的に隔離する必要があります。
もちろん猫によっては犬の存在を気にしない個体もいますが、一般的に猫は犬から「物理的に隔離」する必要があります。「物理的に」とは単にカーテンで見えなくするということではなく、吠え声が聞こえないよう別室にて隔離する必要があります。また犬と猫(特に子猫)では至適気温が異なるため、温度管理の観点からも別室が必要です。
私が勤務していた動物愛護管理センターでは、3つ並んだ収容室の両端を犬と猫の収容室にして、できるだけ犬の声が通らないように真ん中の部屋を準備室にしていました。特に猫はストレスによって急激に体調を崩したり「猫かぜ」が急に悪化したりします。猫のストレス防止には、それくらい気を遣わなければならないのです。一時的に置いておくならまだしも、猫を犬と同じ部屋で何日も収容するなどということはあってはなりません。
そもそも抑留所を譲渡のために用いるのは、施設の目的外使用です。もし保健所で譲渡を行うのであれば、少なくとも第二種動物取扱業の「譲渡業」の基準を満たすような施設を設置すべきです。もちろん犬と猫の収容スペースを分離することは大前提です。