「多頭飼育問題」とどう向き合うか・序章

保健所に勤めていると、「隣家が多数の猫を飼っていて迷惑だ」とか「飼っていた猫が増えすぎたので引取ってほしい」といった相談をよく受けます。また十分に世話ができないにもかかわらず、犬や猫を拾ってきて自宅にため込んでしまう、いわゆる「アニマルホーダー」も存在します。

 

動物の多頭飼育そのものが悪いわけではありません。動物のケアに熟知して、自分が飼える範囲で適正に多頭飼育している人もたくさんいます。不適切な多頭飼育によって人間や動物の福祉が低下したり、生活環境が悪化したりすることが「問題」なのです。

 

私は職業柄、多頭飼育を問題化させている人たちと日常的に接していますが、すべてとは言いませんが、多くの人は動物のケアについての知識が浅いです(例えば子猫に人間用の牛乳を与えたりする、当然のことながら避妊去勢手術に対する認識もない)。また自身の体力や経済力などに対する認識も甘く、ただ感情的理由から、十分なケアを提供することがとうてい無理と思われる数の動物を抱え込んでしまうのです。

 

彼らは「かわいそうだから」と思い、衝動的に犬や猫を拾ってきて飼い始めます。それが1頭や2頭なら大きな問題にはなりません(動物福祉上の問題が生じる可能性はありますが)が、飼っている動物が増えてしまったり、犬や猫を次々に拾ってきたりすることで数がどんどん増えてしまいます。多頭飼育が問題化する大きな要因は「増やしてしまう」ことと「かわいそうな犬や猫の存在」であることは明白でしょう。それらの根本原因が「繁殖制限の失敗」であることは言うまでもありません。犬猫の避妊去勢手術を徹底していけば、多頭飼育問題の多くは防止できると私は考えています。

 

一方、多頭飼育問題は現在進行形の問題でもあります。令和3年3月に環境省から示された「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」においては、官民を超えた連携による早期発見・早期介入により、多頭飼育問題を解決していく重要性について述べられています。また米国のHoarding of Animals Research Consortium(HARC)※1が2004年に開催したフォーラムの報告書”Animal Hoarding : Structuring interdisciplinary responses to help people, animals and communities at risk”(Angell Report)※2には、各機関の連携や共通認識の重要性に加え、アニマルホーダーの定義やタイプ別の介入方法など、アニマルホーディングについての学際的知見が集約されています。

ここからは環境省の「ガイドライン」の内容に沿いつつ、HARCの「Angell report」で示された知見も参考にしながら、多頭飼育問題とどう向き合っていくかについて考えていきたいと思います。

 

※1 Hoarding of Animals Research Consortiumとは多分野の研究者が共同でアニマルホーディングの研究に取り組む「共同体」で、直訳すれば「アニマルホーディング共同研究体」、意訳すれば「アニマルホーディング学会」なのでしょうが、あえて訳さないことにします。

 

※2 フォーラムが開催された米国マサチューセッツ州ボストンのMSPCA Angell Animal Medical Centerにちなみ、この報告書は” Angell Report”と呼ばれています。