環境省の「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」(以下「ガイドライン」)では、「多頭飼育問題」は「多数の動物を飼育しているなかで、適切な飼育管理ができないことにより、下記の3つの影響のいずれか、もしくは複数が生じている状況」と定義されました。
3つの影響とは
①飼い主の生活状況の悪化
②動物の状態の悪化
③周辺の生活環境の悪化
を指します(「ガイドライン」P5)。なお、「ガイドライン」では「飼い主」とは「多頭飼育問題を抱えている者で、主として動物取扱業者ではない一般の飼い主」が想定されています。
つまり、多頭飼育により「飼い主の福祉の低下」「動物の福祉の低下」「生活環境の悪化」のいずれかが生じている状況が「多頭飼育問題」といえます。それを特定の精神障害と結び付けることなく、単純に問題状況そのものに着目するのが環境省の「多頭飼育問題」の考え方です。この概念を、前回ご紹介したHoarding of Animals Research Consortium (HARC)の概念図に重ねてみたのが下の図です。
HARCが「アニマルホーダー」を精神病理学の観点から研究対象にしていこうとしているのに対し、環境省が「多頭飼育問題」という状況の改善を目指していることがお分かりになると思います。私も職業柄、問題を抱えている多頭飼育者を数多く見てきましたが、発達障害やパーソナリティ障害との関連を認めざるを得ないケースもある中で、そこまでには至らない、きわめて軽い発達障害傾向や、愛着障害に起因する性格の「ゆがみ」、または極度の思慮の浅さ(俗っぽい言葉で言うと「ど天然」)など、様々な心理的要因があることも否めません。また、経済状況が急激に悪化し多頭飼育が維持できなくなり問題化するケースや、多頭飼育の飼い主が急死し遺族が途方に暮れているなどというケースなど、必ずしも心理的要因によらない多頭飼育問題も、さほど数は多くありませんが経験したことがあります。
もちろん多頭飼育問題につながるような精神的問題の解決は、それはそれで重要な課題です。しかしそれは完全に人間の問題であって、精神科医や臨床心理士(公認心理士)の領分です。そして決して忘れてはならないのは、多頭飼育問題の責任は100%人間の側にあるということです。多頭飼育問題に向き合う根本姿勢は、不適切な多頭飼育のために苦しむ動物たちを生み出さないこと、そしてそのような状況に置かれた動物を1頭でも多く救うことであるべきであると、私は思います。