多頭飼育による3つの影響 ②動物の状態の悪化

飼われている動物の管理については、完全に飼い主に委ねられています。飼い主の生活状況の悪化は、すなわち動物の状態の悪化(=心身の健康状態が損なわれる)につながります。環境省の「ガイドライン」によると、具体的にこのような状況が生じえます。動物福祉の最低基準である「5つの自由」に照らし合わせて見ていきましょう。

 

適切な獣医療の未実施

住居の衛生状態が適切に管理されていない場合は、動物の健康管理にも適切な注意が払われていない可能性があり、獣医師による診察や治療が必要な動物の放置のほか、感染症が蔓(まん)延することも考えられます。(「ガイドライン」P5)

 

→これはFreedom from Pain, Injury or Disease(痛み、傷害、病気からの自由)を満たしていない状況であるといえます。

 

動物のストレスの増大

また、動物の個体数増加による物理的な過密状態の発生や、不適切な閉じ込め、散歩に連れ出さず、リードが短すぎて身体を横たえられない等の不適切な係留による動物の行動の制約は、動物の心身のストレス増大につながります。動物のストレスの増大は、鳴き声による騒音の発生の要因にもなります。(「ガイドライン」P5)

 

→これはFreedom from Discomfort(不快からの自由)、もしくはFreedom from Fear and Distress(恐怖や苦痛からの自由)を満たしていない状況であるといえます。

 

個体数の増大

個体数増加の影響は、動物の行動の物理的制約のみにとどまりません。不妊去勢手術への適切な対応が困難になり、さらなる個体数の増加や近親交配による先天的な異常をもった動物が生まれるリスクの増大につながるほか、個体数に対して十分な給餌が行われない場合は、飢餓状態に陥った動物による共食いを引き起こすこともあります。(「ガイドライン」P5-6)

 

→先天異常を防止できない状況はFreedom from Pain, Injury or Disease(痛み、傷害、病気からの自由)を満たしていないといえます。また十分な給餌を行わないことはFreedom from Hunger and Thirst(飢えと渇きからの自由)を満たしていない状況といえます。

 

動物の社会化不足

飼い主の中には、動物の数を正確に把握できておらず、一部の個体しか識別できていないというケースも多く、多頭飼育下にあった動物は伴侶動物として人との適切な関係性が築けていないことがしばしばあります。(「ガイドライン」P6)

 

→伴侶動物は人と交流することが適切な行動であり、これはFreedom to Express Normal Behavior(正常な行動を発現する自由)を満たしていない状況といえます。

 

つまり「動物の状態の悪化」を言い換えると、「5つの自由」が満たされていない状況であるといえます。欧米の動物福祉の考え方では、「5つの自由」が満たされていないことは安楽殺さえ検討されうる危機的状況です。