多頭飼育による3つの影響 ③動物の状態の悪化がもたらす影響

環境省の「ガイドライン」には、多頭飼育問題下における動物の状態の悪化がもたらす問題点について触れられています。

 

上記(1)に示した飼育場所における衛生状態の悪化は、飼い主のみならず、動物の健康状態にも影響を及ぼします。動物の状態の悪化の程度によっては、動物愛護管理法第44 条に規定される動物の虐待(ネグレクト等による疾病、栄養不良、死亡等)に該当するおそれがあります。また、虐待に至る前段階の不適正な飼育や、引取り後の殺処分の問題も孕(はら)んでいます。(「ガイドライン」P5)

 

ここで指摘されている問題は ①虐待に係る法的問題 ②虐待に至らない不適正飼養 ③動物の殺処分 の3つです。

 

虐待に係る法的問題

動物愛護法第44条第2項では、ネグレクトも虐待の一種として罰則の対象とされています。

 

みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

また虐待とは言い切れない不適切飼養も、動物の状態悪化につながります。

 

動物の殺処分

「ガイドライン」では、多頭飼育からレスキューされた動物の殺処分の可能性について言及しています。

 

体も心も不健康な状態に置かれた犬や猫は健康状態が悪いだけではなく、社会性もなく、人に慣れていないため、飼い主の生活が破綻し行き場を失ったとき、新しい飼い主を見つけるのは困難を極めます。地方自治体や、動物愛護に団体や個人として関わるボランティア(以下、「動物愛護ボランティア」という。)等が協力して新しい飼い主を探す努力をしますが、全ての動物に譲渡先が見つかるとは限らず、治癒の見込みがない病気に罹(り)患している、人馴れしておらず攻撃性がある等の他者への譲渡が適切ではない動物は、殺処分せざるを得ない場合もあります。(「ガイドライン」P6)

 

私はこの「殺処分」という表現に強い違和感を持っています。たしかに、多頭飼育からレスキューされた動物の中には奇形や人慣れしていないなど、譲渡に向かない個体が含まれる可能性があります。またレスキューされた動物の数が極めて多い場合、全ての動物の譲渡先を見つけることは困難です。しかし多頭飼育問題の責任が100%人間の側にあることを考えると、「譲渡不適」を理由にした人間都合の安易な「殺処分」は許されないと私は考えています。譲渡に向けての努力は最後まで行うべきですし、致死処分せざるを得ない場合は獣医療としての「安楽殺」として実施し、「動物が疾病や傷害により苦しんでいて、苦痛を取り除く手段が安楽殺しかない」または「譲渡により動物や飼い主のQOL(生活の質)が低下するおそれがある行動上の問題がある」と獣医師が判断した場合に限るべきです。