多頭飼育問題の解決に向けて ③動物の飼育状況の改善

動物の飼育状況の改善

多頭飼育問題の解決に向けての動物の飼育状況の改善について、「ガイドライン」にはこう記載されています。

 

動物愛護管理法に基づき、動物は「命あるもの」として、その習性を考慮して適正に取り扱う必要があります。野生動物ではない飼育動物が、飼い主等による適切な飼育管理なしに生きていくことは容易ではありません。飼い主は、動物がその命を終えるまで適正に飼養し(終生飼養)、適切な給餌・給水、必要な健康の管理を行い、その動物の種類、習性等を考慮した飼育環境を確保することが求められます。

動物の飼育状況を改善するためには、飼い主の飼育管理能力を超えた不適正な多頭飼育状態の解消、即ち個体数増加の抑制及び個体数減少のための措置が必須です。(「ガイドライン」P7、赤字筆者)

 

「個体数増加の抑制」には繁殖制限や新規飼養の抑制があげられますし、「個体数減少のための措置」には引取りや譲渡が含まれます。これらの業務は動物愛護法の規定に基づき、各自治体の動物愛護管理部局が行います。具体的には、

 

不適切飼養の飼い主に対する改善命令・改善勧告→動物愛護法第24条第4項

犬又は猫の引取り→動物愛護法第35条第1項

引取りの際の、飼い主への繁殖制限にかかる指導や助言→動物愛護法第37条第2項

引取った犬又は猫の譲渡→動物愛護法第35条第4項

犬又は猫の繁殖制限→動物愛護法第37条第1項

 

しかし注意すべき点は、「引取り」は飼い主の意思に基づくものであり、また「繁殖制限」は飼い主に課せられた義務であることです。自治体が強制することはできません。たとえ不適切な状態で飼養されていたとしても、犬や猫は飼い主の「所有物」であり、それを強制的に引取ったり、避妊去勢手術を行うことは、財産権の侵害に問われるからです。飼い主にいかに所有権を放棄させるかが、多頭飼育問題解決の大きな問題となっています。ある自治体が、多頭飼育問題の現場から猫をレスキューしたまではよかったのですが、結局飼い主が所有権放棄に応じず、譲渡も避妊去勢手術もできないため泥沼化したという事例もあります。米国においては、Civil forfeiture law(民事没収法)やBonding lawに基づく手続きにより、不適切飼養の飼い主から動物を没収することができるという制度が設けられています。日本にもこの制度をぜひ!と現場の人間として強く熱望します。

これらは一義的には自治体の動物愛護管理部局の仕事ですが、一般市町村や獣医師会、開業獣医師や動物愛護推進員、動物愛護ボランティアなどとの連携は不可欠です。なぜなら、ほとんどの自治体は動物愛護管理部局の人員が不足していて、かつ「公務員獣医師不足」を口実にそれが放置されているからです。