「ガイドライン」には、環境省が実施した「令和元年度社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業アンケート調査(2020)」への各自治体の回答のうち、飼い主について記述された自由回答を因子分析し導き出した「飼い主が持つ要素」について記載されています。「因子分析」とはアンケートの自由記載を定量化するためによく用いられる手法で、各文書に共通してみられる因子(要素)を抽出したり、各因子の関連について分析したりします。ただし因子分析には「正解」というものがありません。対象とする因子の数や回転方法(分析の「軸」の定め方)などによって無数の解が導き出されます。分析者はその中からデータを「よく」表現し、かつ解釈が容易な解を採用するのです。
「ガイドライン」では「飼い主が持つ要素」として「因子分析から得られた7つの因子」があげられています。アンケートに回答したのが自治体担当者であることや、因子分析そのものの性質などを差し引く必要はありますが、多頭飼育問題を引き起こす飼い主の大まかな傾向はつかめるのではないでしょうか。
なお「ガイドライン」によると「多頭飼育に陥る飼い主が、以下の7つの要素の全てを有しているわけではないものの、多くの事例において一つ、又は複数の要素を有している」そうで、さらに「同じ要素を有する飼い主であっても、その具体的特徴は飼い主によって様々」ということなので、担当者には<傾向を頭に入れながら個別に判断する>ことが求められるのでしょう。
「ガイドライン」が示す「7つの因子」について簡単にまとめておきます。
不衛生 敷地内に動物の糞尿や白骨死体、ごみが大量に放置されており、非常に強い悪臭や害虫が発生している。当事者はそのような状況を気にかけておらず、本人からも入浴や洗濯を怠ることによる獣臭・悪臭や、ノミ・ダニ等の害虫による全身への刺咬跡がみられることがある。
自立困難 認知能力の低下、老いや病気による歩行困難等の身体的な能力の低下といった1人での生活が困難であると思われる特徴を持ち、その結果、動物への世話も十分に行き届いていないことがある。
貧困 十分な収入が得られないことによる経済的な困窮と、ある程度の収入を得ているにもかかわらず金銭の適切な使い方ができていないという2つのパターンがある。
暴力 近所の住民への暴言や威嚇的行動や、自治体職員の訪問に対して暴れる等の攻撃的な態度での抵抗がみられる。特定の人物または話題にのみ攻撃的な態度を取る場合もある。
固執 動物の所有権を放棄しようとしない、または殺処分や不妊去勢手術へ非常に強い抵抗感を示す。当事者の住居とは別の場所で動物を飼育している場合もある。
サービス拒否 保健医療や社会福祉サービスを拒否する傾向が強い。医療機関への受診を拒否し、結果的に本人と動物の生活状況が悪化する。
依存 アルコールやギャンブル等への依存。動物に対する特殊な依存がみられることも。
※環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」P12~14