多頭飼育問題が生じる社会的背景―生活困窮と悪循環のおそれ

環境省の「ガイドライン」は、多頭飼育問題の発生構造として「行われない繁殖制限」をあげていて、その社会的背景を「生活困窮」としています。私は避妊去勢手術を徹底すれば多頭飼育問題の多くは予防できると考えていますので、「ガイドライン」が「繁殖制限」に言及したことは評価します。その背景に「生活困窮」があることも概ね同意しますが、必ずしも「生活困窮」に起因しない、寄付等の営利目的や病的なホーディングによる多頭飼育問題も存在することを念頭に置く必要があると私は考えます(それも広い意味で「生活困窮」の結果なのかもしれませんが)。

 

生活困窮とは

「ガイドライン」には「生活困窮」という用語がしばしば登場します。行政用語で「生活困窮者」という場合、通常は「生活困窮者自立支援法」第2条で定義される「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」を指します。

しかし「ガイドライン」の制定過程における「第2回 社会福祉政策と連携した多頭飼育対策に関する検討会」の配布資料「参考資料 社会福祉施策と連携した多頭飼育対策に関する主要な用語集(案)」には「生活困窮者」とは「就労が困難で、住む所がない等、生活に困りごとや不安を抱えている人。」と書かれていますので、少なくとも「ガイドライン」においては「生活に困りごとや不安を抱えている人」という意味でよいのでしょう。

「ガイドライン」では、下のような場合に「深刻な生活困窮」が生じる可能性が高まるとされています。

 

・収入の減少(就労困難や失業)

・心身の健康が損なわれる(疾病や障害、認知機能の低下等)

・ライフステージの変化(子どもの自立・離婚・死別等) など

 

地域社会が抱える諸問題

「ガイドライン」では、多頭飼育問題は「虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)問題、ホームレス問題、ごみ屋敷問題等」の「地域社会が抱える諸問題の一つ」とされています。そのため「多頭飼育問題と同時に、児童等に対する身体的・心理的虐待やネグレクトといった複数の問題を抱えている家庭」もあります。

そして「社会のなかで個人が抱える経済的困窮、関係性の困窮等の複数の要素が重なる」ことにより、「生活困窮や地域社会からの孤立を招き」、「地域社会が抱える諸問題」につながっていくとされています。

 

多頭飼育による、生活困窮の悪循環

「ガイドライン」では、多頭飼育により生活困窮の悪循環を招くおそれがあるとしています。

 

また、多頭飼育に陥ることで、多数の動物を飼育するために更なる経済的困窮を招くほか、周辺住民等との軋轢あつれきが生じることで関係性の困窮が深刻化し、生活困窮がより一層悪化する等悪循環を招くこともあります。(「ガイドライン」P16)

 

※環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」P16