多頭飼育問題への対応⑥ 動物の飼育状況の改善

多頭飼育問題の改善のためには、繁殖制限措置により発見時からの動物の増加を抑えつつ、引取りや譲渡によりすでに増えてしまった動物を減少させることが必要です。ただし飼い主の心身の状態によっては、飼育動物を急激に減らすことが望ましくない場合もありますので、社会福祉部局等と調整の上で計画的に引取りを進める必要があります。具体的な進め方について「ガイドライン」にはこう記述されています。

 

・動物がこれ以上増えないように、飼い主自身に繁殖制限措置、動物の逸走(逃げ出し)防止、家屋の修繕等を行わせるか、又はその支援や指導を行う

・不妊去勢手術の費用や地方自治体の引取り手数料が負担できない経済状況の場合、地方自治体の助成や動物愛護ボランティアの支援があれば、それらを活用する

・動物が病気に罹(り)患している、けがをしている、栄養状態が悪い等、多頭飼育により適切なケアができていない場合、特に経済的な理由からそれが行えない場合、所有権を放棄してもらい、地方自治体が引き取るか、動物愛護ボランティアが譲り受ける等して、新たな飼い主への譲渡につなげる

・行政機関のみでの対応が困難な場合は、動物愛護ボランティア、獣医師会等の協力を仰ぐ。その際、人員や費用負担等についてもあらかじめ調整を行う

・動物の飼育に必要な費用等は飼い主が負担すべきものであり、公費による負担は最小限にしなくてはならない。とはいえ、不妊去勢手術に係る助成制度、引取り手数料の免除規定等を用意したり、それらに必要な基金の創設、ふるさと納税、クラウドファンディング等の資金調達方法をあらかじめ準備したりすることを検討する 

(「ガイドライン」P66)

 

また必要に応じて、法令に基づく厳格な対応を行うことも必要です。

 

・動物が虐待を受けるおそれが生じている場合、動物愛護管理法第25 条に基づき飼い主に状況改善のために必要な措置をとるべきことを勧告、命令等を行う

・状況が改善しない場合や早急に虐待を止めなければならないような緊急の場合は、動物愛護管理法第44 条の罰則規定に基づき、刑事事件として対応する

・狂犬病予防法に基づく登録や予防接種をしていない場合は、狂犬病予防法違反として対応する

(「ガイドライン」P66)

 

行政による受入れ態勢等

多頭飼育問題への対応を前提に、動物の受入れ態勢の整備も必要です。「ガイドライン」にはこう書かれています。

 

事案発生時に動物が引き取れないということがないよう、あらかじめ動物愛護管理センター等の受入れ体制を検討しておくことも大切です。また、動物について譲渡適性を判断し、可能な限り一般家庭等へ譲渡することが望ましいものの、治癒の見込みのない病気や、攻撃性がある等の動物については殺処分が必要となることもあります。殺処分を厭(いと)うあまり、多頭飼育状況下にある動物の引取りを行わなければ、多頭飼育問題はより一層深刻化するため、迅速な判断と対応が必要となる場合があります。(「ガイドライン」P67)

 

(のらぬこ注①)ここでは触れられていませんが、多頭飼育からレスキューされた動物の中には状態の悪い個体も少なくありません。猫かぜや皮膚糸状菌症など、治療に一定期間を要する疾病もありますので、処置や治療の体制の整備も必要です。

(のらぬこ注②)「治癒の見込みのない病気や、攻撃性がある等の動物」の致死処分は、国際的に認知されている動物福祉の原則に基づき、獣医療として実施される安楽殺ですし、そうであるべきです。環境省は十把一絡げに「殺処分」という表現を用いていますが、そのことが獣医療としての安楽殺に対する理解を妨げていることに、そろそろ気付いてほしいものです。

 

※ 環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」P66-67