所有権放棄の問題

多頭飼育問題への対応において、われわれ行政担当者が直面する問題が、飼い主による動物の所有権放棄の問題です。多頭飼育問題の解決のためには、飼っている動物の個体数を減らすことが不可欠です。しかし日本の法体系のもとでは、多頭飼育問題を引き起こしている飼い主から飼っている動物を強制的に取り上げることはできないため、動物の引取りや譲渡を行う場合は、飼い主が動物の所有権を放棄することが必須条件になります。

 

飼い主への説得

しかしながら、飼い主が所有権放棄を拒絶することも少なくなく、問題の泥沼化の要因にもなります。「ガイドライン」では、飼い主の説得のためには「飼い主がなぜ所有権放棄を拒絶しているのか、その理由を把握し、理由に応じた対応が必要」としています。具体的には、

 

動物に強く執着している場合

・飼い主の飼育可能な個体数を超えていることを説明する。

・そういう状況によって飼い主が大切にしている動物の飼育環境や健康に悪影響が出ていることを説明する。

・動物の飼育状況の改善のためには、個体数を減らすことが必要であり、そのことが動物のためになるということを伝える。

・全ての動物を引き取るのではなく、飼い主が特に愛情を持っている動物は不妊去勢手術を実施の上、飼育可能な個体数だけ手元に残すという対応も考えられる。

 

殺処分を懸念して所有権の放棄を拒絶している場合

・一般家庭等への譲渡活動等の取組について説明し、理解を得る。

(のらぬこ注:飼い主に安易に「殺処分せずに譲渡する」と言ってしまうと、動物の状態があまりにも悪く安楽殺を避けられなかった場合に信頼関係を損ねるおそれがありますので、説明の仕方には注意が必要です)

 

所有権放棄に係る注意点

「ガイドライン」には、所有権放棄に際しての注意点についても触れられています。

 

・飼い主の同意が得られたら、書面等で意思表示の記録を作成しておく。

・場合によっては、飼い主が所有権放棄に係る書面に署名するところを動画撮影して記録するなどの対応が必要。(「無理に所有権放棄を同意させられたから、反故にすべきである」との主張や、記憶力や認知能力の低下により所有権放棄をした記憶が曖昧な飼い主も存在するため)。

 

※ 環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」P81