欧米において、ペントバルビタールは動物の人道的安楽殺には欠かせない薬剤とされている(信じられないことに、日本では入手できない!)のですが、パンデミックによるサプライチェーンの混乱と、世界に2つしかない製造拠点のうちの1つで起きた大規模な事故により、特に米国やカナダでペントバルビタールの確保が難しくなっているそうです。この状況は2022年半ばまで続く可能性があるということで、ASV(シェルター獣医師会)はアニマルシェルター向けに犬猫の安楽殺法についての文書を発表しています。その内容をざっくりとご紹介します。※そもそも日本ではペントバルビタールが流通していませんから、いまさらの話ですが。
ペントバルビタールの使用量削減
ASVはペントバルビタールの使用量削減が最優先としています。過剰投与はやめ、静脈内投与での安楽殺に必要な最小量を使用します(390mg/mlの溶液の場合、10ポンド≒4.5kgあたり1ml)。ただし複数の方法で死亡を確認することが必要です。
また腹腔内投与は高用量が必要なため極力避け、静脈内投与や心腔内投与(麻酔下)を用います。
他の麻酔薬と併用する
注射麻酔薬や吸入麻酔薬と併用することにより、ペントバルビタールの必要量を削減することができます。特にプロポフォールはペントバルビタールの効果を増強させます。安楽殺のためにペントバルビタールを投与する前にプロポフォールを静脈内投与すると、ペントバルビタールの必要量を半分以上減らすことができます。ただしAVMA(米国獣医師会)は50%以上の削減を推奨していません。またペントバルビタールの単独投与よりも心停止までの時間が長くなる可能性があります。
塩化カリウムまたは硫酸マグネシウム
ペントバルビタールが入手困難な場合の代替法として、ASVは塩化カリウムや硫酸マグネシウムをあげています。塩化カリウムや硫酸マグネシウムは、無意識下において静脈内または心腔内に投与する場合に限り、安楽殺の方法として認められています。その際には適切な麻酔が必要です。投与量の目安は
塩化カリウム:1~2mmol/kg、75~150mg/kg、または1~2mEq/kg。
硫酸マグネシウム:750~1000mg/kg
ASVは塩化カリウムや硫酸マグネシウムは市販品でもよいし、試薬を溶解して作製した溶液でもよいとしています。
計画的な購入と分配
ASVは、動物病院やシェルターはペントバルビタールを買いだめすることなく、計画的に購入するよう呼び掛けています。また法規制の下で各施設がペントバルビタールを融通し合うことも必要としています。
事業の縮小
シェルターがペントバルビタールを入手できず、代替法も実施できない場合、事業を縮小し真に保護が必要な動物のみを受け入れること、また飼い主からの依頼による安楽殺サービスを休止することも選択肢の一つとしています。
”Alternative euthanasia methods during pentobarbital sodium shortage”ASV(2021)
https://asv.memberclicks.net/assets/PDFs/Euthanasia%20solution%20shortage%20in%20shelters_final.pdf