以前に、スペイクリニックにおける一日の業務の流れについてご紹介しましたが、実際にどのように手術が行われているのか、ASPCA(米国動物虐待防止協会)の”Special Considerations for Community Cats at Spay/Neuter Clinics Best Practices for Medical and Management Protocols”からご紹介します。このマニュアルはASV(シェルター獣医師会)による”The Association of Shelter Veterinarians’2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”(ASVの避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016)に準拠しています。
Community cat特有の事情
TNR(もしくはSNR)※プログラムにおけるCommunity cat※の避妊去勢手術は、一般の動物病院におけるペットの猫のそれとはかなり様相が異なります。
Community catは、ペットの猫とは異なる点がいくつかあります。
・人慣れしていない、また意に反して捕獲されているため、興奮している
→麻酔前の触診や、筋肉注射以外の注射は困難
・この機会を逃すと、再び捕獲できる保証はない
→疾病発見時の、手術の可否の判断が難しい
・リターン後のフォローアップは困難
→手術痕の管理は不可能、また疼痛管理が困難
これらの理由から、Community cat特有の手術手順が開発されています。
手術の流れ
Community catの避妊去勢手術は次の手順で実施されます。
(1) 捕獲された猫の受け入れ
(2) 身体検査(目視検査)※耳カットのチェックを含む
(3) 手術の可否の判断
(4) 体重測定
(5) 麻酔薬および鎮痛剤の注射
(6) 個体識別タグの装着
(7) 耳カット
(8) 手術
(9) 入墨
(10) 麻酔からの回復(必要に応じて追加処置)
(11) 退院後、リターン
※ 本マニュアルにおいて、用語はこう定義されています。
TNR:Community catの管理者が避妊去勢手術のためにクリニックに猫を持ち込み、手術後に元の場所に戻す活動。
SNR:シェルターに持ち込まれたCommunity catに避妊去勢手術を施し、元の場所に戻すこと(管理者の有無を問わない)。
Community cat:人慣れしているかしていないかを問わず、地域において自由生活している猫。日本語の「野良猫」に近い概念。