子猫の安楽殺について考える その1

犬猫の殺処分に関する議論の中で、とにかく「殺処分反対、とにかく生かせ」という意見があります。実は私もそう思っています。多数の犬猫を安楽殺してきた「殺処分のプロ」が何を言うかとおっしゃるかもしれませんが、意識を失う寸前まで何とか生きようとする動物たちを見ていると、たとえそれが獣医学的理由による安楽殺であったとしても、動物の生死まで管理しようとする人間の傲慢さに気づかされるのです。

とはいえ、治癒の見込みがないけがや病気で苦しんでいる動物がいて、死をもって苦痛を終わらせるしか方法がない場合、獣医療としての安楽殺をためらうべきではありません。また治癒困難な人獣共通感染症に罹患していたり、飼い主と動物双方のQOLを低下させるおそれがあるような性格的問題を持った動物といった「譲渡困難」な動物については、公衆衛生・生活安全の観点からの総合的判断として、安楽殺が選択されることがあります。前者は苦痛を終わらせるための処置ですので、致死処分に伴い苦痛を与えてしまっては本末転倒です。そのため、必ず安楽殺である必要があります。後者はいわば人間都合の致死処分ですから、確実に安楽殺を実施することが、命を絶つことに対する最低限の礼儀であると私は考えています。

殺処分を論じる際には「殺すか殺さないか」という薄っぺらい二元論ではなく、殺処分に明確な根拠があるかどうか、またその際には確実に安楽殺が実行されているかどうかを見ていただきたいと思います。

安楽殺の確実な実行という観点から言うと、現在において日本の動物管理機関が直面している問題が「子猫の安楽殺法」の問題です。子猫は静脈注射が困難なため、かつてはペントバルビタールナトリウムの腹腔内注射で安楽殺を実施していました。しかし動物用医薬品としてのペントバルビタールナトリウム(「ソムノペンチル」)が日本において販売終了となった今となってはこの方法は使えません。犬や成猫であれば、プロポフォール等の注射麻酔薬の過剰投与という手が使えるのですが、子猫にはこの手は使えません。

子猫は体調の急変により急死することが多く、安楽殺が必要な場面はさほど多くないはずですが、ソムノペンチルなき日本において、どうすれば子猫を安楽殺することができるのか、おそらく各自治体は模索の途中だと思います。そこで次回は子猫の「正しい」安楽殺方について考えてみたいと思います。

 

※安楽殺:「できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし,心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法」(環境省「動物の殺処分方法に関する指針」より)