子猫の安楽殺について考える その2

ソムノペンチル(ペントバルビタールナトリウム)の販売終了により、日本の動物管理機関における、子猫の安楽殺の実行が技術的に難しいという問題に直面しています。安楽殺ではない(可能性が高い)方法で子猫の致死処分が行われているという事例も散見されます。そこで子猫の「正しい」安楽殺について考えてみたいと思います。

 

子猫の生物学的特性

子猫の安楽殺が難しい生物学的理由は下の2つです。

 

・体が小さいため静脈内注射が困難→プロポフォール等の注射麻酔薬が使用不可

・呼吸機能が未発達→吸入麻酔薬や炭酸ガスの効きが悪い

 

ですので、ペントバルビタールの腹腔内注射のみ(麻酔下では心腔内等の内臓内注射も可)が推奨されていたのです。AVMA(米国獣医師会)の「安楽殺ガイドライン」にはこう記載されています。

 

Altricial neonatal and preweanling mammals are relatively resistant to euthanasia methods that rely on hypoxia as their mode of action. It is also difficult, if not impossible, to gain venous access. Therefore, IP injection of pentobarbital is the recommended method of euthanasia in preweanling dogs, cats, and small mammals. 

晩成性の新生児および離乳前の哺乳動物は、作用機序として低酸素に依存する安楽殺法に対して比較的耐性があります。静脈へのアクセスを得るのは、不可能ではないにしても、困難です。したがって、ペントバルビタールの腹腔内注射は、離乳前の犬、猫、および小型哺乳類における安楽殺の推奨される方法です。("AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals:2020 Edition",P59)

 

安楽殺として許容される方法

現在日本において、動物の安楽殺の技術的指針として環境省から示されているただひとつの文書は「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説」(H29)です。そこには子猫に関する記述はないものの、同様に静脈注射が困難なマウスやラットの幼齢個体の安楽殺について触れられています。

 

(前略)生後7 日齢以降のマウスやラットなどの新生子は、成獣と同様に、注射麻酔薬の過量投与や深麻酔下での化学的、あるいは物理的方法を推奨する。死に至る時間を考慮すると、マウスやラットなどの新生子では低酸素症に抵抗性があり、吸入麻酔薬単独等により死に至らすことは人道的ではない。げっ歯類の胎子・新生子の安楽死法は以下の順に推奨される。

 ・ペントバルビタールなどの腹腔内・胸腔内への過量投与

 ・塩化カリウムの心臓内投与

 ・イソフルラン・セボフルランなどの吸入麻酔薬あるいは二酸化炭素(胎子及び7 日齢未満のマウスやラットなどの新生子は適用外)

(以下略、赤字引用者)(P146)

 

次回はこの3つの方法について検討することにしましょう。